日本共産党 書記局長参議院議員
小池 晃

検索

2016年3月9日 本会議 速記録

2016年03月11日

○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
私は、会派を代表して、所得税法等の一部を改正する法律案について、安倍総理に質問します。
一昨年の消費税増税は、家計と消費を直撃しました。先週の予算委員会でも指摘しましたが、家計消費支出は、増税直後にとどまらず、二年近くがたった今も低迷しています。私の質問に対して総理は、消費税増税後の家計消費が予想以上に落ち込み、予想以上に長引いていると述べました。
二年前の国会で私たちは、八%への増税は家計消費に重大な打撃を与え、経済の悪循環の引き金を引くことになると警告しました。当時総理は、一時的な影響にすぎないと繰り返しましたが、その見通しが誤っていたことを認めたことになります。総理はその責任をどう認識しているのでしょうか。
今回、食料品などへの税率を八%とすることをもって軽減税率と称しています。しかし、税率が引き下がるわけではありませんから、せいぜい据置税率と呼ぶべきものであります。そして、一部の税率を八%に据え置いたとしても、消費税率全体を一〇%に引き上げれば逆進性が強まるのではないかという予算委員会での私の質問に、麻生財務大臣は当然のことだと答弁しました。
さらに、公明党の斉藤鉄夫税調会長は、経済誌のインタビューで、将来消費税率は一三から一五%、ひょっとすると欧州のように二〇%になっているかもしれない、そのときでも食べ物は八%に据え置かれる、将来この幅は大きくなる、そのときに初めて軽減税率の意味が出てくると述べています。
財務省の大臣官房審議官も福井県で、消費税率一二%の議論になっても身近な飲食料品は八%のまま、国民理解はある程度得られ、引き上げやすくなる、税率を上げる決断をする政権はやりやすくなるだろうと述べたと地元紙で報道されています。
与党や財務省幹部の言うように、今回の軽減税率は消費税率を一五%や二〇%に引き上げたときに初めて意味が出てくるというのであれば、現時点では意味のないものということになります。総理も同じ認識でしょうか。今回の軽減税率の導入は、一〇%を超える更なる消費税増税のための準備なのですか。はっきりお答えいただきたい。
消費税にとって、価格転嫁の問題は制度に内在する致命的欠陥です。弱い立場の中小零細事業者は消費税の価格転嫁ができず、制度導入以来苦しめられてきました。二年前の消費税増税の影響について日本商工会議所が昨年六月に行ったアンケート調査でも、売上高一千万円以下の事業者のうち、半数は価格に転嫁できず、四分の一は全く転嫁できなかったと答えています。
このような欠陥の上に、更に中小事業者に追い打ちを掛けるのが軽減税率の導入に伴うインボイスの導入です。膨大な事務負担が中小事業者に襲いかかります。新たな事務負担に耐えられず、廃業や倒産に至る事業者が増えることは間違いないという事業者の声に、総理はどう答えるのでしょうか。
消費税増税は、貧困と格差に追い打ちを掛けるものです。来年四月に再増税を強行するなら、三年間で五%から一〇%へ、総額十三兆円、国民一人当たり八万一千円、一世帯当たり十八万四千円ものすさまじい負担増を押し付けることになります。冷え込んだ消費に取り返しの付かない打撃となることは明らかではありませんか。
総理は、リーマン・ショックや大震災のような事態でなければ予定どおり増税すると言いますが、既に家計消費の落ち込みは極めて深刻であり、直ちに増税中止の決断をすべきではありませんか。総理の明確な答弁を求めます。
安倍政権は、法人実効税率を二〇%台に引き下げようとしています。昨年末の与党大綱では、法人課税をより広く負担を分かち合う構造へと改革し、稼ぐ力のある企業等の税負担を軽減することで企業に投資や賃上げを促すとされました。しかし、黒字企業に減税し、赤字企業に増税するのは、税制の原則である応能負担を正面から否定するものであります。
安倍政権がこれまで行った法人税減税の効果はどうか。この三年間で実効税率は三七%から三二・一一%に下がりましたが、法人企業統計によれば、大企業の給与も実質では年間九万円減っています。内部留保は三年間で四十兆円も増えましたが、有形固定資産は増えるどころか逆に減っています。
二〇一五年度の上場企業の配当総額は十兆円を超え、自社株買いは五兆円に上ります。一月からの株価下落を受け、株主還元のための自社株買いはこれから急拡大すると見込まれています。余剰マネーが膨れ上がる一方、実体経済にも家計にも回っていません。こうした中で、法人減税に一体どのような効果があるのか、お答えをいただきたい。
政府は、法人実効税率の引下げで税収が減る分は、課税ベースの拡大、すなわち租税特別措置などの見直しで財源を確保するとしました。
しかし、今年度の税制改正でも聖域とされたのが研究開発減税です。先日公表された政府資料によれば、二〇一四年度の減税額は六千七百四十六億円、全体の〇・一%にも満たない資本金百億円超の企業分が五千四百二十三億円と、全体の八割を占めています。中でも、トヨタ自動車一社に一千八十三億円も減税されており、たった一社で全体の六分の一を占めています。これらを公正で妥当なものだと総理は考えるのでしょうか。
日本経団連の税制改正の責任者は、昨年三月の専門誌のインタビューで、実効税率引下げによる減税と租特見直しによる増税の影響を経団連の主要企業ごとに試算し、差引きで減税になるよう、少なくとも増税にならないようにしたと述べています。
中堅企業や中小企業が外形標準課税の課税強化、消費税の増税で苦しむ中で、経団連言いなりに制度設計を進め、アベノミクスの下で史上最高の利益を上げ続けている大企業に減税をばらまく、こうしたやり方のどこに道理があるというのでしょうか。
法人実効税率引下げは、経団連が従来から求めていたアジア近隣諸国並みの二五%への引下げの要望を安倍政権が丸のみしたものです。しかし、法人税引下げ競争に対しては、OECDからも、際限のない税収の減少と福祉切捨て、庶民増税につながる懸念が指摘されてきました。これから急速な少子高齢化を迎えるアジア近隣諸国に対し、減税競争の引き金を引けば、近隣窮乏化策となるのは明らかではありませんか。
アジアに競争と分断をもたらす法人税引下げ競争を防止する国際協調のためのイニシアチブこそ、日本の果たすべき役割ではありませんか。そのためにも、法人税減税は中止すべきであります。明確な答弁を求めます。
格差拡大、貧困の広がりの一方、富裕層には富が一極集中しています。アベノミクス三年間のこれまでの株価上昇で、含み資産が百億円以上増えた人が二百人に達しています。
先日、二〇一四年分の申告所得の政府統計が公表されました。それによれば、所得階層別の所得税負担率は、申告所得五千万から一億円までの個人で税負担率が二八・七%となり、それを過ぎると下がり始め、百億円超では一七%となっています。超富裕層ほど税負担率が低下するという逆転現象は依然として放置されています。これは、株式譲渡益の所得税率一五%、住民税を含めても二〇%という優遇があるからです。欧米並みの三〇%に引き上げ、格差是正を進めるのは急務の課題ではないでしょうか。
我が党は、大企業と富裕層優遇の不公平税制を改め、消費税に頼らない税財政の再建策も提案をしております。アベノミクスとバブルとトリクルダウンの政策を中止をし、家計と中小企業への支援で内需を拡大し、格差と貧困を是正する経済政策への抜本的な転換を求めて、質問を終わります。(拍手)

〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 小池晃議員にお答えをいたします。
一昨年の消費税率引上げの影響についてお尋ねがありました。
一昨年の消費税率八%への引上げが消費に大きな影響を与えたのは事実です。だからこそ、我々は一〇%への引上げを一年半延期しました。この間、我々はしっかりと三本の矢の政策を進めてきました。その結果、名目GDPは二十七兆円増加し、企業収益は過去最高となり、昨年の賃上げ率は十七年ぶりの高水準となるなど、成長軌道に戻ってきています。
なお、足下の個人消費については、記録的な暖冬といった天候要因等を背景に力強さに欠けていますが、雇用・所得環境の改善が続く中で更に持ち直していくことが期待されます。
今後は、より力強い賃金上昇の実現を促すとともに、消費の底上げ効果が発現するよう、最低賃金の引上げを含め、各種政策にしっかりと取り組み、経済の好循環を回すことによってデフレ脱却を確かなものとしていきます。
軽減税率制度の導入の意義についてお尋ねがありました。
消費税の軽減税率制度については、税制抜本改革法第七条に基づく消費税率一〇%への引上げに伴う低所得者への配慮として導入することとしたものであり、更なる消費税増税のための準備との御指摘は当たりません。
軽減税率制度は、給付付き税額控除といった給付措置とは異なり、日々の生活において幅広い消費者が消費、利活用している商品の消費税の負担を直接軽減することにより、買物の都度、痛税感の緩和を実感できるとの利点があり、この点が特に重要であるとの判断により導入を決定しました。
また、年収の低い方の飲食料品等の消費支出に占める割合は高収入の方よりも高くなっており、消費税が有しているいわゆる逆進性の緩和の観点からも有効であると考えています。さらに、日々の生活の中で痛税感の緩和を実感していただくことで、消費者の消費行動にもプラスの影響があるものと期待できるのではないかと考えています。
消費税の価格転嫁とインボイス制度についてのお尋ねがありました。
消費税については、中小企業を含む事業者の方々が消費税を円滑かつ適正に転嫁できることが重要であり、消費税転嫁対策特別措置法等に基づき、政府一丸となって取り組んでいるところです。
この結果、中小企業庁が本年一月に実施したアンケート調査によれば、事業者間取引において、全て転嫁できていると回答した事業者が八五・八%であった一方、全く転嫁できていないと回答した事業者が三・四%となっております。しかしながら、これで良いということではなく、消費者向け取引を含め、小規模事業者の方までしっかり転嫁できるよう引き続ききめ細かく対応してまいります。
いわゆるインボイス制度については、事業者の準備に配慮し、その導入時期を平成三十三年四月とし、それまでの間、簡素な方法によることとしております。
また、軽減税率制度の導入に向け、制度の周知徹底、相談への対応を丁寧に行うとともに、中小の小売事業者等が複数税率に対応するために必要なレジの導入やシステムの改修等に対して資金的に支援することとしており、予備費や補正予算で手当てを行っているところであります。
いずれにせよ、軽減税率制度が円滑に導入できるよう、事業者の準備状況の検証をしつつ、政府として万全の準備を進めてまいります。
消費税率引上げについてのお尋ねがありました。
日本経済のファンダメンタルズは確かなものと認識しています。一昨年の消費税率八%への引上げによって、個人消費は二四半期連続で前年に比べ二%を超えて落ち込むなど、予想を超えた影響を及ぼしました。デフレ脱却を確かなものとするため、我々は一〇%への引上げを一年半延期し、しっかりと三本の矢の政策を推し進めてまいりました。
その結果、個人消費は二〇一四年十―十二月期には前期比プラス〇・七%となり、その後も底堅く推移してきました。昨年十―十二月期には記録的な暖冬の影響もあって落ち込みましたが、八%への引上げ時と比べ、名目雇用者報酬は二・八%の伸び、失業率は〇・四%ポイントの改善、有効求人倍率は一・〇八倍から一・二八倍に上昇するなど、雇用・所得環境の改善が続く中、個人消費も持ち直していくことが期待されています。今後も賃上げの流れを続け、雇用や所得の拡大を通じた経済の好循環を回すことによってデフレ脱却を確かなものとしていきます。
来年四月の消費税率一〇%への引上げは、世界に冠たる社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会からの国の信認を確保するため、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り確実に実施します。経済の好循環を力強く回していくことにより、そのための経済状況をつくり出していきます。
法人税改革などの効果についてお尋ねがありました。
安倍内閣においては、所得拡大促進税制などの政策税制の活用や法人実効税率の引下げに取り組んできており、そうしたことも一つのきっかけとして、二年連続の大幅な賃上げが実現するなど、経済の好循環が確実に生まれてきたものと考えております。
今般の法人税改革も、企業が収益力を高め、より積極的に賃上げや設備投資に取り組むよう促す観点から行うものであります。経済界も、法人実効税率二〇%台の実現といった事業環境の整備を受けて、賃上げや設備投資に積極的に取り組んでいく旨を表明しており、企業の実際の取組につながっていくことを期待しております。
研究開発税制についてお尋ねがありました。
研究開発税制は、その要件を満たせば幅広く利用できる制度であり、利用件数を見ると中小企業にも幅広く利用されております。御指摘のとおり、大企業の利用金額が大きくなっていますが、これは研究開発投資に積極的に取り組んだことの表れでもあると考えております。
また、この制度については、平成二十七年度税制改正で一定の見直しを行っており、引き続き様々な観点から取扱いについて検討してまいります。
法人実効税率の引下げについてお尋ねがありました。
安倍内閣では、法人実効税率を国際的に遜色のない水準まで引き下げることを目指して法人税改革を進めてきたものであり、諸外国との税率引下げ競争の引き金になるものとは考えておりません。
来年度には目標としていた二〇%台を実現しますが、課税ベースの拡大等により必要な財源はしっかりと確保しており、大企業に減税をばらまくとの批判は当たりません。
株式譲渡益に対する課税についてお尋ねがありました。
金融所得に係る分離課税の税率に関しては、平成二十六年から上場株式等の配当及び譲渡益について、地方税を含め一〇%の軽減税率を廃止し、地方税を含め二〇%の本則税率としたところです。
これにより、御指摘の所得税の負担率は高所得者ほど上昇する傾向が見られ、所得再配分機能の回復に一定の効果があったのではないかと考えています。
今後の税率の水準については、経済社会の情勢の変化や税制全体の在り方の中での位置付け等も踏まえつつ検討する必要があるものと考えております。(拍手)

ご意見・ご要望