日本共産党 書記局長参議院議員
小池 晃

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2016年5月19日 厚生労働委員会 速記録

2016年05月19日

○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
 今日は、職業がんの問題を取り上げたいと思います。
 がんは日本人の死因の約三割、トップを占めているわけです。その中で職業がん、これは二〇一二年発表のイギリスにおける職業がんの発生頻度に関する論文によりますと、全てのがん死亡者のうちの五・三%が職業に起因したがんだというレポートもございます。これ、日本に当てはめれば、全がん死亡者数が三十六万人だった二〇一二年には二万一千人が職業がんで亡くなったという推計もできるわけです。実際、EUの機関が委託した研究概要でも、ヨーロッパでは年間三万五千人から四万五千人が職業関連のがんで死亡しているという報告があります。
 厚労省にお聞きしますが、二〇一四年度に日本で労災認定された職業がんの総数、その内訳についてはアスベスト関連とそれ以外に分けてお答えください。

○政府参考人(加藤誠実君) お答えいたします。
 平成二十六年度に職業がんで新規に労災保険給付の支給決定を行いました件数は九百三十三件でございまして、その内訳は、石綿によるがんが九百二十件、そのうち中皮腫が五百二十九件、肺がんが三百九十一件、そのほかの化学物質に起因しますがんとしまして、1・2ジクロロプロパンによります胆管がんが六件、ベンジジンによります尿路系腫瘍が二件、ベーターナフチルアミンによります尿路系腫瘍など五つのがんでそれぞれ各一件となっております。

○小池晃君 日本で労災認定されている職業がん、そもそも少ない上に、圧倒的にアスベスト関連、それ以外ほとんどないのが実態です。推計される規模とは大きな乖離があります。
 これ、がんというのは誰しも発症する可能性あるわけですが、アスベストなど職業上特定の物質を扱うことで暴露して発症する、いわゆる職業がんはこれ予防対策でリスクを減らせます。
 今日のテーマをちょっと外れますけれども、アスベストについて言えば、建設アスベスト訴訟で国の対応の遅れがこれは被害を広げたということで賠償責任に問われていて、さきの京都地裁判決では国とともに企業の責任も認めました。国には被害者への謝罪と賠償、石綿被害者補償基金制度の創設、建設現場でのアスベスト飛散の完全防止などを求めてまいりたいと思いますが、今日は、アスベストと同様に、化学物質による職業がんの発生、このことを取り上げたいんです。
 二〇一三年には、今御紹介もありました1・2ジクロロプロパンによる胆管がんが大問題になりました。昨年は福井県の化学工場で膀胱がんが多発しているという労働者の告発があり、大問題になりました。これ、発がんされた方は、オルトトルイジンを含む芳香族アミンを原料としてアセチル化反応を行った生成物を乾燥して袋詰めする作業に従事して、暴露開始から発病まで約二十年、これ、工場の労働者四十人のうちこの作業に従事していたのは十人程度なんですが、そのうち五人が発症している。退職者二人を含めて七人発症している、極めて高率なんですね。
 これは、化学一般労働組合が告発して明らかになって、厚労省も調査しています。この調査結果、発がんの原因も含めて概要を簡潔に説明してください。労災認定の状況も併せてお願いします。

○政府参考人(加藤誠実君) お答えいたします。
福井県の化学工場におけます膀胱がん発生事案につきましては、労働安全衛生総合研究所が現地に入りまして災害調査を実施いたしました。三月十八日に暫定的な取りまとめ結果でございますけれども、公表いたしましたが、その中では、オルトトリジンの生体への取り込みがあったことは明らかというふうにされておりますし、経皮暴露による取り込みがあったと推察されるというふうにされております。

〔委員長退席、理事島村大君着席〕

 また、膀胱がん発症者からの労災請求につきましては、所轄の労働基準監督署におきまして、個々の労働者の作業内容、化学物質等への暴露状況を調査しているところでございまして、調査結果を踏まえて業務上外の判断を行うこととしております。

○小池晃君 これは、労災申請、現職五名、退職者二名から出されて審査中だというふうに聞いております。迅速な対応をお願いしたいと思うんですが。
 職場で化学物質を取り扱う際に、その危険有害性や適切な取扱方法を文書交付するSDS、安全データシート制度というのがあります。今回問題となったこのオルトトルイジンを含んで一定の危険有害物質と定義されている物質、交付、表示が義務付けられているのは五百二十一あるんです。
 全てこれが交付されている事業所の割合はどれだけなんですか。守られなかった場合の対応はどうなるんでしょうか。

○政府参考人(加藤誠実君) 平成二十六年の労働安全衛生調査結果におきまして、SDSを全て交付していると回答した事業場は五三・八%で、SDSを一部交付していると譲渡・提供先から求めがあれば交付しているを合わせますと、一応八〇%は超えておるという状況でございます。
 しかしながら、御指摘のように、SDSの交付につきましては、メーカーに対する罰則を設けておりませんけれども、SDSが確実に交付されていることは有害な化学物質から労働者の健康と安全を守るため、また本年から義務化するリスクアセスメントの実施に当たりまして極めて重要でありますので、直近では平成二十七年度の下半期以降、都道府県労働局、労働基準監督署を通じた改正法の説明会等におきましてSDSの確実な交付及び入手を含めた指導を行うとともに、平成二十七年九月に業界団体に対しましてSDS交付状況の点検を要請したところでございます。
 今後も、化学物質を取り扱います関係事業場への指導等によりSDS交付の徹底を図ってまいります。

○小池晃君 今御答弁ありましたけど、罰則ないんですね、これ、労働安全衛生法五十七条二違反になっても。こういう重大な問題で私は罰則がないというのは大問題だと思いますし、今御答弁あったように、全て交付されている事業場は半分しかないというのが実態なわけです。これ、非常に重大な到達ではないかなというふうに言わざるを得ません。
 SDS制度では、文書の交付とともに、扱う物質の安全性や使用に当たっての注意などを取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、また備え付けること、その他、取り扱う労働者に周知しなければならないと義務付けているわけですが、しかし、これ全て交付しているのは約半数だと。
 そこでお聞きしますけれども、今回のこの膀胱がんが多発している福井の事業所は、SDS制度に基づく労働者への掲示義務は果たしていたんでしょうか。

○政府参考人(加藤誠実君) お答えいたします。
 個別の事業場に対します監督指導の結果については回答を差し控えさせていただきますけれども、委員御指摘のような、そういう法令違反が確認された場合につきましては是正を指導していくこととしております。

○小池晃君 だから、罰則がないんじゃ効力は弱いでしょうと言っているわけですね。
 個別のこと答えられないというけど、労働者の証言では、この事業所では、少なくとも五年前まではSDS制度で義務付けられていた掲示はされていなかった、その物質について労働者は注意すべき情報が知らされていなかった、そして有毒物質に直接接触する作業を日常的に行っていたというわけです。

〔理事島村大君退席、委員長着席〕

 オルトトルイジンの反応工程はどんなふうになっているかというと、かつては防じんマスクも付けていなかった、夏は上半身Tシャツ一枚で作業をして、ろ過槽の中に結晶がたまるのをかき出す、そこに顔を突っ込んで粉じんまみれになりながら有毒物質をかき出すような作業をしていたと、こういうわけですよ。
 この職場も、先ほど言っていた交付されているのは五三%ですから、要するに文書が交付されていない四六%の職場に入るわけですね。危険有毒とされる化学物質について情報が知らされずに働かされていた、こういう中で十人の労働者のうち五人が膀胱がんを発症した、私はこれは重大だというふうに言わざるを得ないと思うんです。
 大臣、有毒化学物質から労働者を守るためのSDS制度が十分に機能していないではないかと、やはりこれは深刻な問題だと思いますが、大臣の認識を伺います。

○国務大臣(塩崎恭久君) おっしゃるとおり、事業場で安全データシート、SDS、これは掲示しなきゃいけないわけでありますけど、していないということは、当然のことながら、働く方の安全と健康を守る観点からは問題だというふうに私どもも思っています。
 厚生労働省としては、安全データシート、SDSの対象である化学物質を取り扱う事業場への指導、そして関係事業者団体への要請によってこの安全データシート、SDSの掲示等の徹底を図っていくことによって、働く方の安全と健康を守っていかなければならないというふうに認識しております。

○小池晃君 しかも、このオルトトルイジンは、動物実験だけじゃなくて人に対する発がん性の証拠があるということで、IARC、国際がん研究機関、WHOの下部機関ですが、これは二〇一〇年にグループ1、一番危険度の高い、一番発がん性が明確なグループに格上げしています。このIARCのグループ1にはどれだけの物質が入っていますか。二〇一〇年に格上げされた後、日本としてはどう対応されましたか。

○政府参考人(加藤誠実君) IARCのグループ1、人に対して発がん性があるものにつきましては、化学物質で約七十物質を含んでおりまして、それ以外に放射性物質、食品、たばこ、太陽光など百十八の作用因子が分類されております。
 オルトトルイジンにつきましては、平成十九年度に、国内の使用量でありますとか使用状況、暴露実態を調査した上でリスク評価というのを行ったところ、リスクは十分低いと評価されたため、特定化学物質障害予防規則の対象とはされませんでした。
 平成二十二年にIARCの発がん性に関する有害性が2のAから1に変更されたわけでございますけれども、その際には、日本産業衛生学会の許容濃度、それからACGIH、米国労働衛生専門家会議の暴露限界値も変更がなかったことから、作業環境管理の観点から規制の見直しはしなかったところでございます。

○小池晃君 私は、この対応も重大だと思うんですね。このIARCがグループ1に格上げした二〇一〇年以降も掲示は変わらなかったというのが福井の事業所の労働者の証言なんです。やはり、こうしたことをきちんと伝えないまま膀胱がん、職業がんが発生しているという実態がある。
 厚生労働省は、オルトトルイジンを使用しているこの事業所以外の調査やりましたか。その結果、膀胱がんの病歴、所見のあったのは何人ですか。

○政府参考人(加藤誠実君) 福井県の事業場におけます膀胱がんの事案が明らかになった後、厚生労働省では、全国六十八事業場に対しまして、オルトトルイジンの取扱状況や労働者、退職者の膀胱がんの病歴等につきまして調査を行いました。
 その結果、オルトトルイジンを現在取り扱っている事業場は二十四か所、オルトトルイジンを過去に取り扱っていた事業場は二十七か所、オルトトルイジンを取り扱ったことのない事業場は十七か所でございました。それが明らかになりました。
 また、本年三月時点では、福井県の事業場以外で膀胱がんの病歴又は所見が明らかとなりましたのは六事業場で各一名、一事業場で三名でございます。ただし、製造工程の従事歴が確認されていないなどの方も含まれるなど、業務との因果関係はまだ現時点で不明でございます。
 厚生労働省では、この調査を受けまして、オルトトルイジンを取り扱ったことがある五十一事業場につきまして、暴露防止対策の徹底を指導したところでございます。また、化学物質の取扱状況に応じたリスクアセスメントとその結果に基づく適切な措置につきまして、化学物質の取扱事業場に対して指導の徹底を図るよう、今年の二月に全国の労働局に指示をいたしました。
 また、今年の六月には、一定の有害性がある化学物質につきましては、芳香族アミンも含めましてリスクアセスメントの義務化が施行されるため、一層の周知徹底を図っていくこととしております。

○小池晃君 今回の調査はオルトトルイジンに限っていますが、今あったように、芳香族アミン全体に、この芳香族アミンに属する物質が一定の危険有害物質と言われる中に幾つもあるわけですよ。
 今年の一月は、化学一般労働組合が厚労省に対して、早期の労災認定と併せて芳香族アミン類を特定化学物質に指定せよと、そのことを要請をしています。芳香族アミン類のがん原性調査をするように求めています。
 大臣、やはり芳香族アミン全体について、これは調査、規制、これやるべきじゃないでしょうか。

○国務大臣(塩崎恭久君) 先ほど答弁をしたとおり、PRTR法に基づくこの届出等の情報によってオルトトルイジンを取り扱っていると考えられる全国六十八事業場について調査をした結果、オルトトルイジンについて、先ほど申し上げたとおりの、現在取り扱っているところだけでも二十四か所あると。もちろん、かつて扱っていたというところが二十七あるわけでありまして、また、IARCがグループ一に分類をしている化学物質のうちの芳香族アミンは、オルトトルイジンを含めて七物質あるということでございます。このうち三物質は製造禁止に、そして二物質は特定化学物質障害予防規則による局所排気装置の設置、そして作業環境測定等の規制の対象という規制を掛けているところでございまして、残る一物質は現在国内では使用されていないという状況でございますので、今の規制の在り方はそういう形になっているということでございます。

○小池晃君 もう一つちょっと問題にしたいのは作業環境の管理がどうなっているかなんですが、労働安全衛生調査で、作業環境管理が適切でない、いわゆる管理区分三、これ二〇〇六年と二〇一四年でどうなっていますか、事業所数でお答えください。

○政府参考人(加藤誠実君) お答えいたします。
 平成二十六年の労働安全衛生調査におきまして、作業環境測定の結果、特定化学物質の気中濃度が許容される水準を超えておりまして作業場における作業環境管理が適当でない事業場、いわゆる管理区分三に当たるものでございますが、それの割合は、前回の平成十八年は二・九%、直近の平成二十六年は五・七%でございました。

○小池晃君 作業環境管理に問題がある事業所の比率が倍増しているわけです。
 これ、福井の場合は、労働者が会社に対して血尿が出ましたという事実を伝えて、作業方法が危険なんじゃないかと労働者訴えても、問題がないという対応をして強引に作業が続けられたというんですね。やはり、作業環境管理が職業がん発症を増やすことにつながっているということは明らかだというふうに思うんです。
 厚労省は、作業環境管理の悪化が有害物質暴露、がん発症につながるという認識はお持ちでしょうか。労働環境の改善というのはこれは待ったなしだと思うんですが、その点についての認識を聞きます。

○政府参考人(加藤誠実君) 作業環境測定の結果、特定化学物質の気中濃度が許容される水準を超えており作業場における作業管理が適当でない事業場、管理区分三の割合が一定程度見られることは事実でありますが、そのような事業場には速やかに作業環境の改善を図ることとしております。
 具体的には、一般には暴露が大きい塗装作業でありますとか洗浄作業等を行っている事業場でありますとか、特殊健康診断の結果、有所見者が見られる事業場など、労働衛生管理に問題があると思われる事業場を優先的に指導の対象としているところでございます。
 また、本年度の労働基準行政の重点施策の一つとしまして化学物質による健康障害防止対策を掲げておりまして、特定化学物質障害予防規則、リスクアセスメント等の遵守徹底を図っているところでございます。

○小池晃君 やっています、やっていますと言うけど、実際にこれ出ているわけですね、事例が。
 やっぱり、きちっとできていないからこういうことになっているわけじゃないですか。背景にあるのは、やっぱり有毒物質に対する教育が十分できていない、極めて不十分だと。こうした化学物質を中間体として扱うような職場というのはこれ中小企業多いわけです。非正規、下請労働者が作業を行っている場合も多いわけですね。今後、オルトトルイジンが禁止になっても、労働者が暴露した時期の職場の状況を後で特定するのは極めて大変な状況だということもあります。
 大臣、1・2ジクロロプロパンによる胆管がん、今回のオルトトルイジンによる膀胱がん、やっぱり化学物質を扱う職場の詳細な実態調査と、それに基づいてSDS制度を抜本的に強化するということが必要じゃないでしょうか、お答えいただきたい。

○国務大臣(塩崎恭久君) 厚生労働省としても、危険、有害な化学物質を譲渡するときの安全データシートやSDSの交付が徹底されていないということもあるので、これを徹底されるようにしなければいけませんし、化学物質を譲渡する事業者とか、それを使用する事業者に指導をして、法令遵守を徹底しないといけないというふうに思います。
 また、平成二十六年度労働安全衛生法の改正によって、この六月から、先ほど来お話が出ておりますけれども、容器等へのラベル表示が義務付けられている対象物質の拡大、これは百十九物質から六百四十物質で、これは罰則ありということで、先ほど罰則がないことが、規制がありましたが、こういったことなどの化学物質の規制が強化をされておりまして、この法令の遵守の徹底に向けて、化学物質を取り扱う個々の事業場に対する指導監督をこれは強化しないといけないというふうに思います。
 まずは、これら法令の遵守徹底、そして化学物質による職業がんの発生防止に取り組まなければならないと思いますが、さらに、発がん性のある物質を取り扱っている事業場の実態を把握すること、確かに重要であるというふうに認識をしております。
 厚生労働省では、特に有害な物質の中から毎年三十種類程度を選定をして調査を行っておりまして、その結果、規制が必要と認められた化学物質については局所排気装置の設置を義務付けるなどの措置を講じておりますけれども、いずれにしても、職場で、冒頭おっしゃっていたような、特定のがんになるというようなことがないような職場環境の整備をしていかなければいけないというふうに思います。

○小池晃君 しっかりやっていただきたいと思います。
 終わります。

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