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日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008]

Interview
小泉「医療改革」をどう見るか
アメリカ報復戦争下のパキスタン訪問にもふれて

小池 晃氏
日本共産党参議院議員、厚生労働委員
全日本民医連理事

――小池 晃参議院議員に聞く――

聞き手:湯浅ちなみ「民医連医療」編集委員

 1月21日から通常国会が始まりました。昨年の同時多発テロに対する報復への自衛隊海外派兵の問題や、さらなる患者負担を強いる医療改悪問題など、国会情勢について日本共産党小池晃参議員(全日本民医連理事)に本誌編集委員の湯浅ちなみさん(長野民医連事務局)がうかがいました。
湯浅 昨年9月に起きたアメリカでの同時多発テロを受け、アメリカは報復戦争をはじめました。この報復戦争で多くの市民が巻き添えになりました。小池議員は実際にアフガニスタンの隣国パキスタンに行かれましたが、まず、そのお話からお聞かせください。

憲法9条の値打ち明らか
小池 私自身、戦争で傷ついた人を見るのは、生まれて初めての経験でしたが、こんなにもすさまじいものかというのが、率直な実感でした。
 傷といっても、日本で診察していても、めったにみないような傷なのです。たとえば脳のなかに爆弾の破片がささっている子どもとか、あるいは全身に爆弾の破片をあびている女性とか、かかとから足の先まで、足の裏が骨と肉ごともぎ取られている人など、戦争による傷というのは、かくもすさまじいものかということを思い知らされました。
 テロをなくすことは当然だと思います。しかし報復戦争を無条件で支持し、アメリカといっしょになって自衛隊を派兵する小泉内閣のやり方は、テロをなくすことには全くつながらないと痛感しました。傷ついた市民は、テロリストとは全然関係ない人ばかりなのです。それなのにこんなむごい仕打ちをしていれば、テロリストの応援団を増やすだけ。第二、第三のテロを生むだけです。
 そもそも日本にはかけがえのない役割があったと思います。アフガニスタンの国民は日本をすごく信頼しています。なぜかというと、日本はイスラム教を弾圧したことがないからです。さらに、中央アジア、中東の国を侵略したことはないからです。そういう点では、日本は本当に特別な存在なのです。
 さらに日本に対しては、「広島・長崎」というイメージが強いのです。「日本のどこを知ってますか」と聞くと、「広島・長崎」と答える方が驚くほど多かったのです。そして、アメリカからあれほどひどい被害を受けた日本がなぜアメリカと一緒に軍隊を送るのか「理由がわからない」というのです。
 2月号の岩波書店の雑誌『世界』で、元経済企画庁長官の田中秀征さんが、日本には、本当に特別な役割があったが、自衛隊派遣でその役割を滅茶苦茶にしたと指摘しています。小泉首相が、アメリカのいうがまま報復戦争に日本を参戦させたことは、日本が持っているかけがえのない役割を壊したわけで、歴史的に大きなあやまちでした。
 私は今度の事態を通じて、日本の憲法9条の値打ちが改めて浮き彫りになったと思います。武力行使で解決をするのではなく、ねばり強い平和外交こそ憲法で裏付けられた日本の役割だと思います。だからその道の真ん中を堂々と歩いていくべきだったのです。憲法9条を生かした道を歩いていくことこそ、まさに21世紀の日本の道なのだと思います。パキスタンに行って、日本の憲法や日本の役割についてクッキリと見えてきたという気がします。

湯浅ちなみ氏
長野民医連事務局次長、本誌編集委員

戦争と平和は医療の原点
湯浅 国内でも、誇るべき平和憲法について語っている方は増えてきていますよね。
小池 そうですね。やはり危機感が広がっているのでしょう。
 一昨年から昨年にかけて、本当に憲法がないがしろにされ続けた。一昨年の秋、アメリカが明確に憲法を変えろと日本に迫ってきました。現在、国防副長官のアーミテージ氏が、集団的自衛権を行使できるように憲法を変えるべきだと提言しました。いわゆる「アーミテージレポート」です。
 小泉総理が就任してまず、第一声で何を言ったかというと集団的自衛権を行使できるように憲法を変えよう。これが第一声です。しかし国民からの批判があがり、その後はいったん鳴りをひそめていたところ、昨年の9月11日のテロ事件が起こった。そしたらもう一気に、テロ特措法によって自衛隊の派兵を決め、自衛隊法の改悪で「防衛秘密」なるものを規定して、国民の知る権利を奪ったのです。そして今年の国会では有事立法をつくろうとしている。まさに戦争が可能になるような法律づくりが進められてきているなかで、このままでは本当に戦争が起こるのではないかという危機感が広がってきています。
 心強く思っているのは、若い人がこの問題に関心を持っていることです。今回のアフガンへの空爆のように、テレビを通じてリアルに人が傷つけられているのが見える戦争は、ここ最近なかったからだと思います。それだけに、高校生や大学生はたいへん強い関心を持っています。
 各地で開いた報告会でも、若い人の参加が目立ちます。先日も横浜で、高校生が集会を開くので来てほしいと呼ばれました。20人ぐらいかと思っていったら、とんでもない。150人ぐらいが参加して、一生懸命調べてきたアフガニスタンの歴史などを報告するので感心しました。その後、にぎやかな伊勢佐木町をデモ行進していたら、アメリカ人が飛び入りで参加して、「日本の若い人は関心ないのかとあきらめていたが、こんな取り組みを知って嬉しい」と語っていました。
 憲法がないがしろにされてきてはいるけれども、そのことで危機感を持っている人とか、関心を持ちはじめている人というのはかえって増えてきて、このことはすごく心強く思っているのです。
 テロをなくすために、なにが必要か。まず、アフガニスタンへの報復戦争をとにかくやめることがすべての前提だと思います。これをやっている限り、どんなことをやったってうまくいかないと思います。やはり今のような爆撃をやればやるほど、逆にテロリストをかばう人たちを増やすだけだと思います。しかも、3年続いた干ばつによる食糧危機の問題とか、アフガン難民の中でポリオが流行しているとか、いろいろな悪条件があるなかで爆撃をしている。爆撃はアフガンの復興をますます困難にするだけです。
 これからどうすればいいのか。やはり、アフガニスタンの人たちの国づくりをサポートしていくことが大事です。経済的な支援、医療の面での支援、教育での支援ということを、しっかり続けていくということがなによりも大切ではないかと思います。
湯浅 民医連の若い職員の人たちに小池議員が訴えたいこと、とくにつかんでほしいことはなんでしょうか。
小池 戦争と平和の問題というのは、医療の原点だと思います。
 もちろん医療改悪などで病院にかかれず、それで命を落とすという患者さんもいらっしゃる。そんなことが起きないようにたたかわなければいけないし、そのためにも、患者さんの病気だけみるのではなくて、社会的背景もみなければいけない。
 けれども、その社会的背景そのものを打ち砕くのが戦争だと思います。本当に遠い国の話ではあるのだけれども、そこで現実に人の命が次々と奪われている。テロも戦争も、人の命を守る医療とは対極のことであるだけに、知らんぷりすることはできない。 しかも今度の戦争は今までとわけが違うのです。日本の自衛隊が参戦したわけですから。医療人としても、日本人としても、無関心であることは許されないのではないでしょうか。
 目の前の患者さんの命を救うのと同じぐらい、この報復戦争に反対するたたかいにはエネルギーを注いでいく必要があるのではないかと思います。

小泉内閣の政治手法
湯浅 小泉内閣は依然高い支持率を誇っていますが、彼の政治手法はどのようなものでしょうか。
小池 小泉首相は、「痛みを伴う改革が必要だ」「構造改革なくして景気回復なし」と言います。しかし、このデタラメさはだんだん明らかになってきたのではないでしょうか。
 小泉首相のいう「構造改革」の結果、何が起こっているか。たとえば、中小企業の倒産が続いて失業者があふれているとか、あるいは社会保障がどんどん切り捨てられている。それがはっきりしてきて、逆に「構造改革」をやればやるほど、くらしも景気も悪くなるのではという不安が広がっています。
 しかし一方で、軽視できない傾向もあります。日本銀行が「生活意識に関するアンケート」を、毎年3月と9月に半年ごとにやっています。ここで注目すべきなのは、「不景気になっても、経済や社会の構造を改革するためならやむをえないと思う」と答えている人が、一昨年の9月は14%なのです。それが去年の3月は23%。それが去年の9月には32%と増えてきている。
 このような気分・感情があるというのは、見逃せないと思います。あまりにも暮らしが苦しいし、展望が見えないものだから、これまでのやり方ではダメだ、ここは一発逆転で、思いきって何かやってもらわないといけない、それが「構造改革」なのではないかという気分・感情があることは、リアルに見ておかないといけない。
 でも決して、悲観的になる必要はないと思います。これは自民党・公明党の政治に対する満足ではなくて、逆にあまりに政治がひどいからこその結果です。小泉首相は、ここにつけこんで、今のところ、ある程度は成功しているのでしょう。
 しかし、こうした気分は、むしろ今までの大企業べったりの政治を変えてほしいという願いですから、小泉さんのやろうとしていることは、それをもっともっと露骨に進めようとしているということがはっきりすれば、これは急激に変わる世論だと思います。
 つまり、今の「小泉人気」の裏にあるのは、自民党や公明党の政治に対する、心の底からの怒りや、現状を打開してほしいという願いであることをしっかり見ておく必要があるのではないかと思うのです。
 そういう意味では、一番こうした本質がハッキリ見えてくるのが、医療の問題だと思います。だから、これからの医療改悪とのたたかいというのは、ものすごく大切な、まさに正念場だと思います。
 「痛みを伴う改革」といっても、今まで痛くもかゆくもなかった自民党の政治家への痛みならわかりますが、そうではなくて、今まで一番痛い思いをしてきた庶民に痛みを与えるのが医療改悪の中身です。
 今一番現実に打撃を受けているのは、国保の加入者ではないでしょうか。国民健康保険の保険証が次々取り上げられている。去年4月に北九州で32歳の女性が亡くなりました。糖尿病と甲状腺機能亢進症だったそうです。
 この方は会社が倒産して健保から国保になり、高い保険料が払えず、保険証を取り上げられたのです。甲状腺機能亢進症というのは、きちんと治療すればコントロールできる病気ですけれども、治療しなければ心不全で命を落とすこともあります。この方は、何度も市役所にかけあっているのだけれども、結局保険証を出してもらえなかった。最後の手紙には、もとのご主人に「いつも迷惑かけてごめんね」と書かれていたそうです。そして亡くなっている。
 亡くなったあとで入った4万円の葬祭費を保険料として納入をして、それで1週間後に保険証が送られてきたといいます。本当にひどい話だと思います。
 この保険証取り上げの規定をつくったのは誰かというと、小泉さんなのです。97年に介護保険法をつくりましたが、その時同時に国民健康保険法を改悪して、保険証の取り上げを自治体の義務としたのです。その結果、こういう事態が起こっているのです。痛みを伴う改革というのはどういうものか、小泉首相はもうすでに実践済みなのです。
 小泉首相が厚生大臣時代にやったことは、問題だらけの介護保険法の制定、97年の医療改悪での健保本人2割負担、98年の難病医療有料化などです。厚生大臣の時にこれだけ「痛みを伴う改革」をやっていますから、それを見ればこれからの中身のひどさは、だいたい想像できるだろうと思っています。

米空軍の空爆で頭部を負傷した子どものレントゲン写真を見る小池議員(右)
ークエッタしないの病院ー

世界にもまれな3割負担
湯浅 民医連のケースワーカーの調査でも、ここ3年の間に、不景気になって保険証がなくて、持てなくて、危うくなってかつぎこまれてくるケースがすごく増えています。実際に集めてみて、ケースワーカー自身が驚いているのです。ここ3年間ぐらいの実感だと言っていました。このままではますますひどくなるのではないかと思います。
小池 過去に何度も医療改悪はやられてきました。しかし、今度の医療改悪が決定的に違うのは、景気とか国民の暮らしが困難な中でやろうとしていることです。健保本人を2割負担とした97年の時の景気も今ほどは悪くはなかったが、医療改悪を行い、消費税を増税し、景気を急降下させたわけでしょう。しかし今の経済状態は、奈落の底にむかうような下り坂のなかにあるのです。医療改悪がなくたって苦しいのに、そこにぶつけようというところが、本当に今までにない中身だと思います。
湯浅 それでも痛みを我慢せよと言っているわけですね。
小池 全く許せないことだと思います。今度の医療改悪は、現役世代を3割の負担に全部揃えてしまおうというのが一番大きな中身です。3割負担の国保では、患者さんにいろいろな検査や入院をおすすめする時、負担が高い分すごくためらいます。それが現役世代はすべて3割になってしまう、もう大変なことになると思います。
 最初は、今年の10月から3割に引き上げる予定でしたが、それが「必要な時から」という表現になりました。自民党の一部の政治家は、「先送りした」と言っています。しかし小泉首相は来年の4月から引き上げると明言しているし、そもそも「必要な時」といっても患者・国民はだれも必要とは言ってません。自民党や公明党にとっての「必要な時」なら、いつだってやりかねない。歯止めになっていないのです。
 そもそも、3割負担の医療保険なんて、世界のどこにもありません。それどころか診療費の負担はとらないという国が圧倒的に多いです。この前、カナダで病院に受診したとき、みんな診察室を出ると、窓口負担がありませんからそのままスッと帰っていくのです。世界ではこれが当たり前なのですね。うらやましく思いました。
 それから2番目の問題は、高齢者の負担の大きさです。定額制と、負担の上限制を廃止し、定率1割にそろえる改悪です。
 2001年1月1日から、高齢者には定率制が導入されたばかりです。この改悪が審議された国会で私は「高齢者は、懐具合を気にしながら病院へ行っているのだから、定率制などになったら病院に来れなくなる」と国会で追及したら、当時の森総理や津島厚生大臣は、「そんなことない。定額制もあるし、それから上限もつくったから、きめ細かな対応をしている」と答弁しました。それから一年しか経っていないというのに変えることなど、決して許されません。
 負担の上限は、今までは200床未満の病院は3,000円、200床以上は5,000円でした。これが12,000円になります。しかも今度は「上限」ではなく、償還払いになるのです。現在の高額療養費と同じですから、一旦は一割全額を払わなければいけない。つまり、病院に行ってもいくらかかるかわからない、たとえ12,000円持っていってもそれ以上かかるかもしれない。これはやはりお年寄りにとってみるとすごく心配でしょう。はげしい受診抑制が起こると思います。
 それから「高額所得者」は2割負担になります。ただそれは、どれぐらいの人が対象になるかというと、12%です。1割強の方が2割負担になるのですから,それほど「お金持ち」という方ばかりではないのではないか。しかも、病院の窓口で「あなたは1割」「あなたは2割」という差別が持ち込まれるわけで、これは高齢者の心を深く傷つけるし、病院の窓口の業務も混乱するでしょう。
 しかも、窓口負担だけではなくて、保険料も増え、総報酬制になる。中小企業の政管健保で計算すると、ボーナスにも保険料がかかってくると、だいたい平均的な中小企業の労働者で、年間の保険料が18,000円増えるという計算になります。窓口負担が増えたうえで保険料が増える、まさにふんだりけったりだと思います。

大岡越前から学ぶ「三方一両損」の意味
湯浅 小泉総理は、痛みを伴うこの改革に「三方一両損」ということを盛んにおっしゃっていますが、どのようなことなのでしょうか。
小池 小泉さんと医療改悪で論戦した時に、彼は今度の医療改悪の痛みは、患者さんだけではない、医療機関にも保険者にも痛みを分かち合ってもらう。だから「三方一両損」だといいました。
 「三方一両損」とはどういう話か。左官の金太郎さんが財布を拾うわけです。そのなかには3両入っていた。落とし主の大工の吉五郎さんのところに持っていったらば、吉五郎さんは、財布は受け取るのだけれども、「そんな一旦懐を出た金なんて受け取れるか。俺は江戸っ子なんだ」と大げんかになるわけです。
 この3両の扱いに困って大岡越前に預けます。そうすると、大岡越前が自分のポケットマネーから一両出して合計四両にして、2両ずつ分けてやる。それで吉五郎さんも金太郎さんも、3両もらえるところが2両。大岡越前も1両ポケットマネーから出した。みんな1両損した。だから「三方一両損」と言われています。
 しかし、「三方一両損」といっても、みんなが損をするということは、ありえないわけです。損をする人がいるということは、必ずどこかに得している人がいるわけです。それはいったい誰か。
 このことを先日、国会で追及したのだけれども、得しているのはまず製薬企業です。日本の薬剤費は、いまだに世界一高いのです。経済産業省の経済構造審議会では、日本の薬剤費を欧米諸国並にすれば1兆4500億円、医療費は節減できると提言しているほどです。
 さらに一番得しているのは国です。今度の医療改悪で、国の医療費負担は3000億円も減っているのですから、全然痛みを分かち合っていないのです。
 「三方一両損」の話がなぜ面白いか。それは、大岡越前が一両出すからです。それなのに、国が大岡越前だとは言わないけれども、小泉さんは何をやったかというと、損するどころか3000億円も得しているわけです。
 よく考えると大岡越前というのは、3両もらえるはずのところを、彼はポケットマネーから1両出したのです。4両損したではないかという説もあるぐらい。私は一番損したのは大岡越前だと思う。
 この話から小泉さんが学ぶべきなのは、まずお上が身銭を切るということです。国が公共事業とか銀行に対する税金投入を削って、医療に対してお金を出す。これこそ私は教訓だと思うのです。

さらに包括化が進む診療報酬
湯浅 患者負担に負担を求め、医療機関には診療報酬を下げていく。定昇があっても実質賃下げになり、病院経営が困難になりますね。
小池 そうですね。診療報酬そのものがマイナス13%で、薬価とあわせてマイナス2.7%。診療報酬本体の引き下げというのは初めてです。これは病院の経営には、非常に大きな打撃になることは間違いありません。
 今度の診療報酬改定で一番問題だと思うのは、6ヵ月以上の長期入院の扱いです。療養型病床に6ヵ月以上入院している人は、政府の関係機関の調査でも6割。療養型病床では10万人以上の患者さんが6ヵ月以上入院しています。6ヵ月以上の入院の入院基本料の一部を特定療養費化する、つまり保険から外してしまうという。
 それからもう一つは、今度の診療報酬の改定のなかで、包括払いの導入が言われています。これは大学病院など、いわゆる特定療養機関からやろうとしています。病院ごとに1日の入院の基本的な診療の部分は定額にしてしまおうということです。たとえば、○○大学病院に入ったら1日いくらと決めてしまう。次の段階では、○○大学病院の胃ガンは1日いくら、心筋梗塞は1日いくら、そういう疾患別の定額制を設定する。それがうまくいったら、第三段階では○○大学病院の胃ガンについては、何日入院しようが関係なくいくら、大腸ガンはいくらと設定する。アメリカで行われているDRG-PPSの日本版みたいなものです。これが今年から入れられようとしているわけです。
 さらに差額徴収の拡大が言われています。具体的には差額ベッドの拡大です。病院全体に占める差額ベッド割合の上限は五割ですが、これをはずそうとしています。それから、今でも200床以上の病院は初診料を差額徴収できるのだけれども、これを再診料にも拡げる。さらにセカンドオピニオン、たとえばガンになったという時に、自分の主治医ではなくて別のお医者さんの意見を聞く時も、差額徴収してもよいと。あらゆる手段で差額徴収できる範囲を大幅に拡大しようというのです。
 このように、診療報酬も、今までにないかなり踏み込んだ改悪の中身になっています。
湯浅 「朝日新聞」の暮らしの欄で、診療報酬の特集を2回ばかり続けてやりましたか、今ひとつ中身が踏み込みきれていないと言う感想を持ちましたが。
小池 マスコミの論調では診療報酬の議論というのは、医者の利益みたいな描き方をします。しかし、診療報酬は医師の所得になる部分だけでなく、医療を経済的に保障していく仕組みなのですから、これによって日本の医療のあり方が決まっていく大切なものだと思います。医療労働者の労働条件などにも、密接に関わるものでもあります。こうした中身に踏み込んだ議論をしなければならないと思います。
湯浅 医療改悪や診療報酬問題に関して、医師会と一致して、運動が広がってきていますが。
小池 基本的に、医療に対する国の支出を増やしていくべきだという大きな流れでは、医師会と考え方が一致する部分は多いのです。先日も、日本医師会の副会長と懇談してきましたけれども、公共事業の無駄を削るべきだというところまで含めてほとんど意見は一致しています。しかし選挙では自民党を応援し、自民党に政治献金したりするという問題点もあります。これでは、国民の目には、医師会というのは自分たちの利益のためだけにやっているのだとどうしても見えてしまうし、そのことはけっして医師会にとってもいいことではないと思います。医師会のなかでも心ある方は、こういうやり方ではよくないということは言いはじめています。そのことには注目をしているのですけれども、こういう自民党だけと結びついて、献金や選挙応援の見返りとして医師会の要求を実現するという従来からの手法をキッパリあらためて、国民から本当に信頼されるような団体になっていってほしいと思います。
湯浅 去年の暮れに長野で医団連のシンポジウムをやって、医師会の代表の方がみえたのです。医師会の立場を中心に、医療改悪の中身のひどさをお話ししたあとに、保険医協会の方から「97年の時に医師会は最初は反対してた。でも途中で妥協してしまった。今回はそういうことがないようにお願いしたい」という、そういう開業医からきつい言葉がありありました。公の舞台で一緒にやるようになったという変化を、地方でも感じていいます。
小池 運動の仕方がずいぶん変わりました。医師会が老人クラブや地域の人たちにも呼びかけて、医療改悪反対集会を各地でやっています。国民の世論で包囲するためには、国民が心から一緒になって応援できるような医師会にならざるをえません。そうしないと、自分たちの要求も実現できないという情勢になってきているのです。これはやはり今の政治の矛盾の一つの大きなあらわれだろうと思います。

重大な中身の学習と宣伝を
湯浅 最後に今後のたたかいにむけて強調しておきたいことはありますか。
小池 今回の医療改悪の特徴は、まず第一に医療保険の自己負担を原則3割にするというねらいをあからさまにしたことです。
 日本の健康保険法は、昭和2年につくられました。この法律の第43条には「被保険者ノ疾病、又ハ負傷ニ関シテハ療養ノ給付ヲ為ス」としかありません。「窓口で自己負担が必要」などとは一言も書いていないのです。なぜなら、昭和2年に健康保険制度ができた時には、窓口負担はなかったからです。それが昭和17年に改悪されて、昭和18年4月1日から一部負担制度が導入された。まさに戦争末期に、日本の医療保険制度というのは、原則無料から原則自己負担の制度にさせられたのです。
 今度は、アメリカの報復戦争に参加する議論のなかで原則3割負担にしようというのです。
 これは私は偶然の一致ではないと思うのです。戦争で命を奪い、社会保障の改悪で命を奪う。根っこは一つだと思います。今度の改悪というのは、こういう歴史的なものなのではないか。
 それから二つ目の特徴として、政府の文書で、公的医療保険の範囲を狭くし、保険外の自費負担を増やすといっています。たとえばMRIの検査とか、ターミナルケアとか、そういったものは保険から外してしまって、自由にお金をとれるようにする。混合診療を解禁して、保険診療と自由診療の垣根を低くする。医者の指名料や差額ベッドの拡大をしようというわけです。さらに、それに加えて診療報酬をうんと下げようとしている。これが結びつくとどうなるか。公的医療保険を縮小し、自由診療との垣根を低くして、公的医療保険に対する報酬は下げる。これでは民医連以外の多くの病院は、保険外徴収に走ることになりかねないわけです。
 つまり、今までは公的医療保険制度中心であったが、これからは自由にお金をとれる世界を医療のなかにも作っていく。公的な医療保険の上に自由診療の部分という、二階建ての制度に大きく作り替えていくことがはっきり出された改悪です。
 今回の改悪は、このように歴史的に重大な中身を持っています。同時にこんなことをやれば、日本の医療は壊滅的になる。そこまで理解を広げていくためにも、大いに学習し、宣伝し、力いっぱいたたかっていきましょう

民医連医療2002年3月号より

▲ドクター小池の処方箋・目次

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