二〇〇二年度診療報酬改定に関する質問主意書
および内閣答弁書

(質問主意書 2002年2月21日 小池晃参院議員提出)
 (答弁書 2002年3月29日 小泉純一郎内閣総理大臣より参議院議長あて送付) 
                        

(質問前文)
 多くの国民は、安心して健康に暮らせる社会の実現を切望しているが、医療制度の相次ぐ改悪と患者負担増による受診抑制で、健康悪化が国民的規模で進行している。さらに、政府が「構造改革」の名の下に進める高齢者原則一割、健保本人三割などの負担増は、受診抑制を加速し、症状の重症化の結果、医療費は増大し医療保険財政を一層圧迫することにならざるをえない。
 あわせて政府は、医療の内容と質を経済的に支える診療報酬本体の史上初の引下げを強行しようとしている。
 六か月超の入院料などの保険外負担の拡大などを含む診療報酬の引下げは、医療体制の弱体化を招き、患者が受ける医療の質と安全にも重大な影響をもたらすだけでなく、公的保険給付を縮小し、保険診療と保険外診療の混在によって国民皆保険制度を空洞化させことになる。
 以下、二〇〇二年度の診療報酬改定に限って質問する。

(質問一) 再診料と外来診療料の月内逓減制について

1 導入の理由の一つに外来の機能分担が挙げられているが、月内逓減制の導入がなぜ機能分担を促進するのか説明されたい。

 (答弁一の1)
 平成十四年度の診療報酬の改定(以下「十四年改定」という。)においては、再診料及び外来診療料について同一月の受診回数の増加に伴って一回当たりの点数を逓減すること(以下「月内逓減制」という。)により、受診回数の適正化を図ることとしている。特に、診療所及び病床数二百床未満の病院に係る再診料については各月四回目以降の点数を大幅に低減することとしており、これにより医療機関の一層の機能分化を図ることとしている。     


2 診療科により平均受診回数に大きな違いがあるが、そのことは逓減制の実施に当たってなぜ考慮されないのか。

(答弁一の2)
 月内逓減制については、御指摘のように診療科に着目するのではなく、頻回の診療を必要とする患者等に着目して行うこととしており、透析を実施している患者、慢性痺痛疾患管理料を算定している患者等に係る再診料及び外来診療料については、点数の逓減を緩和することとしている。

(質問二)
  これまで、退院した患者に対して退院の日から一月以内に行った在宅療養指導管理の費用は、入院していた医療機関・他の医療機関ともに算定できなかったが、入院していた医療機関では退院時の指導管理を退院時に算定できた。今回、入院していた医療機関に加え、他の医療機関でも一定条件の下で算定可とするとある。しかしそもそも、在宅療養指導管理料に自院以外の退院患者を含む旨の規定がない限りは、入院していた医療機関に係る規定と解釈すべきであると考えるが、見解を示されたい。

(答弁二) 
 退院する患者に対しては、通常、当該患者が入院していた医療機関により退院時に必要な在宅療養指導管理が実施されると考えられることから、退院時に在宅療養指導管理料を算定できることとする一方、退院後一月以内に在宅療養指導管理が行われた場合は、これを実施する医療機関のいかんを問わず、在宅療養指導管理料を算定できないこととしている。
 しかしながら、退院後の患者の転居等により入院していた医療機関が在宅療養指導管理を実施することが困難な場合があること等から、十四年改定においては、退院時に在宅療養指導管理料が算定されなかった患者について退院後一月以内に在宅療養指導管理が行われた場合は、これを実施する医療機関のいかんを問わず、在宅療養指導管理料を算定できることとしたところである。

(質問三)
  褥瘡対策や医療安全管理体制を推進していくことは極めて重要であるが、今回褥瘡対策未実施、医療安全管理体制未整備の各減算を導入するに当たり、それらに掛かるコストをどの程度と見積もっているのか。そのコストが入院基本料において評価された上で、未整備、未実施の場合に減算するということか、見解を示されたい。

(答弁三) 
 入院基本料には院内感染防止対策、祷瘡対策等の実施や医療安全管理体制の整備に対する評価が含まれているが、十四年改定においては、祷瘡対策の未実施や医療安全管理体制の未整備について入院基本料を減算することとしている。祷瘡対策や医療安全管理体制の整備に要する費用は医療機関によって様々であると考えられるが、これらを実施しない場合の減算点数ついて・は、現行の院内感染防止対策が未実施の場合の減算点数を勘案して定めたところである。

(質問四) 外来慢性維持透析の見直しについて

1 透析患者の生命予後にとって、透析時間は長いほど良いとされているが、このことについての見解を示されたい。

(答弁 四の1)
 透析時間と患者の予後との関係については、様々な見解があると承知しており、今後更に医学的知見を集積する必要があると考えている。。


2 今回の改定では、透析実施時間による点数の段階的設定を廃止するとしている。これにより、障害者加算の対象とならない患者であって、医療上長時間の透析を必要とする場合には、診療報酬上の評価がされなくなるが、なぜこのようなことが許されるのか説明されたい。

(答弁 四の2)
 従来から、著しく透析が困難な者に対して透析を行った場合には、点数を加算することとしているが、十四年改定においては、近年の透析に要する時間の変化等を踏まえて従来の透析時間別の評価を一本化することに伴い、特に長時間の透析を必要とする患者等に対する透析を適切に評価する観点から、加算の対象となる者の範囲を大幅に拡大したところである。

3 外来慢性維持透析における食事加算が廃止されようとしているが、外来慢性維持透析における食事療法の意義についてどのように考えるか。

(答弁 四の3)
 透析の食事加算は、透析に長時間を要していたことを前提として設定されたものであるが、十四年改定においては、近年の透析に要する時間の変化等を踏まえて当該加算を廃止したものであり、治療の一環として行われる食事の提供については、透析に係る点数の中で包括的に評価することとしたところである。

(質問五)
 手術の施設基準の設定について
1 対象手術の選定基準では、診療報酬で一万点以上のものとされているが、その根拠を明らかにされたい。

(答弁五の1)
 医療機関が御指摘の手術の施設基準(以下「施哉基準」という。)を充足するか否かによって手術に係る点数は異なることになるが、十四年改定においては、質の高い医療を効率的に提供する観点から、難易度の高い手術又は特殊な専門技術若しくは高額な医療材料を必要とする一定の手術を施設基準の対象に加えるとともに、年間症例数や医師の経験年数を踏まえた施設基準の見直しを行ったところである。
 これらの施設基準の対象となる手術については、現行の診療報酬で一万点以上のものを目安として、個々の手術の特性等も踏まえて選定したところである。

2 経営的判断から病院によっては施設基準を達成しうる手術に絞り込み、その結果患者が手術を受けたい地域で受けることができないなどの弊害が生まれるのではないか。

(答弁五の2)
 施設基準の対象となる手術の選定に当たっては、症例数が多い手術をその対象から外すなど患者の利便性にも配慮しているが、難易度の高い手術等の技術と経験の集積を図るために施設基準を設定することは、質の高い医療の効率的な提供に資するものと考えている。

(質問六)
 小児入院医療管理料の1、2を算定する医療機関の数は、それぞれどの程度見込んでいるのか。地域連携小児夜間・休日診療料を算定する医療機関の数はどの程度見込んでいるのか。小児救急医療の問題解決のためには、初・再診料や外来診療料に対する小児・乳幼児加算、時間外・深夜・休日加算、および入院基本料に対する乳幼児救急医療管理加算などの大幅引上げこそ必要ではないかと考えるがいかがか。

(答弁六) 
 小児入院医療管理料1、小児入院医療管理料2又は地域連携小児夜間・休日診療料を算定する医療機関の数は、それぞれ一都道府県当たり平均で数施設程度になると考えている。
 また、平成十二年度の診療報酬の改定では初診料、再診料等に係る乳幼児加算等を大幅に引き上げたところであり、十四年改定では地域において時間外、夜間等に小児医療を常時提供する体制の整備を評価する地域連携小児夜間・休日診療料を新設するなど、小児救急医療の更なる充実を図ることとしている。

(質問七)
  入院基本料の平均在院日数要件を、二十一日(入院基本料一)、二十六日(入院基本料二)にそれぞれ引き下げる根拠を示されたい。また、急性期入院加算及び急性期特定入院加算に係る平均在院日数要件を十七日に引き下げる根拠を示されたい。あわせて現行の急性期加算を算定している医療機関のうちどの程度の機関がこの要件を満たすと見込んでいるのか明らかにされたい。

(答弁七) 
 十四年改定においては、入院医療の機能分担と効率的な医療の提供を目的として入院基本料の平均在院日数の要件を見直すこととしているが、これは、一般病棟入院基本料の1又は2を算定する医療機関の平均在院日数が短縮されていること、これらの医療機関の大半が既に見直し後の平均在院日数の要件を満たしていると考えられること等を勘案して行うものである。
  また、急性期入院加算及び急性期特定入院加算の平均在院日数の要件については、急性期入院医療を適切に評価するため、従来から一般病棟入院基本料よりも短い日数としてきているところであり、十四年改定においても、一般病棟入院基本料の平均在院日数の要件の改正と併せて見直すこととしたものである。
  なお、十四年改定による改正後の要件が適用される平成十四年十月までには、現在急性期入院加算又は急性期特定入院加算を算定している医療機関の大半が当該要件を満たすことになると考えている。

(質問八)
 夜間勤務等看護加算の基準のうち、1cを廃止するとしているが、その理由を示されたい。また、現在1cを算定している医療機関数を明らかにされたい。

(答弁八)
 十四年改定においては、医療の高度化に伴って夜間の看護業務が増大していることや医療事故防止対策の確実な実施が求められていることを踏まえ、夜間における看護体制の一層の充実を図るため、診療報酬における評価の重点化を図ることとしており、夜間に患者十人に対して看護師又は准看獲師(以下看護師等」という。)一人を配置する体制を新たに評価の対象とする一方、夜間に患者三十人に対して看護師等一人を配置する体制を評価する夜間勤務等看護加算1Cを廃止することとしている。また、平成十三年七月現在、夜間勤務等看護加算1Cを算定している病棟数は二千三百六十三である。

(質問九)
  外来診療における看護業務の役割・意義についてどう考えるか。診療報酬で、外来看護業務に対する評価をすべきと考えるがいかがか。

(答弁九)
 治療法の多様化等を背景として、外来診療における看護業務の役割は一層重要になってきていると認識している。
 診療報酬においても、こうした外来診療を適切に評価していくことが必要と考えており、十四年改定においては、専任の常勤の看護師が配置された専用室において悪性腫瘍患者に対して実施される外来化学療法を新たに評価することとしたところである。


(質問十) 長期療養の入院基本料等の特定療養費化について

1 六か月を超える入院の入院基本料等の特定療養費化で、どの程度の長期入院患者が退院すると推計しているのか。そしてそうした患者のうち、在宅療養を行う患者数、各介護保険施設へ入所する患者数(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)、及びそれ以外の患者数について、それぞれどれだけ見込んでいるのか明らかにされたい。

(答弁十の1)
 療養病床等に六月を超えて入院している患者の約四割は福祉施設や在宅によって対応することが可能である旨の民間団体による調査結果等があり、これを基に、長期入院患者に係る特定療養費制度の対象となる可能性のある患者数を五万人程度と推計している。

2 経過措置終了の二〇〇四年四月一日からは、入院時期にかかわらず、規定通りに施行されるのか。

(答弁十の2)
 長期入院患者に係る特定療養費制度に関する患者の入院時期に応じた経過措置は、平成十六年三月三十一日までの開通用されるものである。

3 低所得者に対する負担軽減などの対策は行われないのか。

(答弁十の3)
 長期入院患者に係る特定療養費制度は、患者側の事情により長期間入院している患者に対する医療保険からの給付の在り方を見直すという観点から導入されるものであり、医療保険から給付される額を超える費用については、基本的には各医療機関が患者から徴収することになる。

(質問十一)
 外来総合診療料(外総診)の廃止については、「算定要件が複雑で、現場で運用の混乱が見られている」ということが理由とされているが、これは開始当初から指摘されていたにもかかわらず、なぜ今になって廃止なのか、理由を説明されたい。また、外総診の施行の結果を、どのように総括しているのか。廃止により新たな混乱を生むとは考えないのか。

 (答弁十一)
 老人慢性疾患外来総合診療料(以下「外総診」という。)については、平成八年度の診療報酬の改定において高齢者の慢性疾患に対する外来診療を包括して評価するものとして設定し、その後、平成十年度及び平成十二年度の診療報酬の改定においては算定要件を明確化するなど、円滑な施行に努めてきたところであり、外総診を算定する医療機関が漸増するなど一定程度普及してきたと考えている。
  しかしながら、特定の医療機関に通院するすべての老人慢性疾患患者に適用される外総診については、当該患者が他の医療機関を受診した場合の取扱い等に関する混乱が続いたことから、十四年改定においては、外総診を廃止することとしている。なお、平成十四年十月に外総診を廃止するまでの間医療機関に十分な周知徹底を図ることにより、混乱が生ずることのないよう努めてまいりたい。

(質問十二)
  新生児介補加算・乳児介補加算を給付の公平性の観点から廃止するとしているが、現在どの程度算定しているのか。廃止後に新生児介補、乳児介補が必要な場合は全額患者負担となるのか。少子化対策を強化するという方針からすれば、むしろ給付をすべてに適用し公平性を担保するべきではないか、見解を示されたい。

(答弁十二) 
 平成十二年度社会医療診療行為別調査によれば、新生児介補加算は一日当たり約千回算定されているが乳児介補加算は算定されていない。
 これらの加算の対象となっている新生児や乳児の健康状態は、健康な産婦等の新生児や乳児と同様と考えられることから、十四年改定においては、産婦等の間の負担の公平性や近年の厳しい保険財政にかんがみ、これらの加算を廃止することとしたものである。これにより、従来加算の対象となった行為の費用は、健康な産婦等の場合と同様に、全額産婦等の負担となる場合があると考えている。

(質問十三)
 一九八一年以降の医療経済実態調査では、歯科個人診療所の収支差額は減少し続け、今回調査では最低の額まで減少している。医業経営の合理化や職員体制の縮小という手段での歯科診療所の経営は限界に達している。今回更に一.三%の歯科診療報酬引下げで良質な歯科医療の確保と歯科医院の経営が、果たして成り立つと考えているのか。

(答弁十三)
 歯科診療報酬については、賃金や物価の動向、歯科医業の経営の実態、歯科医療技術の進歩等を勘案するとともに、中央社会保険医療協議会における議論を踏まえ、適切に設定しているところである。

(質問十四)
 「かかりつけ歯科医初診料」は前回改定で新設されたが、そのときにはどの程度の算定率を見込んでいたのか。日本歯科医師会の昨年三月の調査では、十三.三%と極めて低い算定率にとどまっているが、この原因はいったいどこにあると考えるのか。今回の改定で、算定率はどの程度変化すると見込んでいるのか。

(答弁十四)
 平成十二年度の歯科診療報酬の改定の際には、初診料のうち約七割がかかりつけ歯科医初診料として算定されるものと考えていたが、歯科医師が患者に説明するために使用する資料の選択肢を限定していたこと等から、かかりつけ歯科医初診料は十分に普及しなかったと考えている。十四年改定においては、当該選択肢を増やすこととしており、今後はかかりつけ歯科医初診料の算定が促進されるものと考えている。

(質問十五)
 補綴物維持管理について、「補綴物維持管理未実施施設における歯冠補綴物製作及 び根管治療に係る技術料の低減」の理由を示されたい。


(答弁十五)
 歯冠補綴物又はブリッジを装着した後にその維持管理を継続的に実施すること(以下「補綴物維持管理」という。)は、患者の咀嚼機能を長期間健全に維持する上で重要であり、約九割の歯科医療機関が補綴物維持管理料を算定しているところである。
 十四年改定においては、補綴物維持管理の一層の普及を図る観点から、補綴物維持管理を行わない歯科医療機関については、歯冠補綴物及びブリッジに係る歯冠修復及び欠損補綴料を低減することとしたものである。


 以上
         >>>質問主意書(2002年2月21日提出)
         >>>内閣答弁書(2002年3月29日送付)