Dr.小池の日本を治す!
菅首相と「第3の道」の行方

【Dr.小池の日本を治す!】菅首相と「第3の道」の行方

 6月4日に菅直人氏が総理大臣に指名され、8日に新内閣が発足し、所信表明演説も行われました。新内閣に問われるものは何か、考えてみましょう。

 鳩山辞任で「一件落着」にはならない

 菅氏は、代表選出馬の記者会見で、「普天間」と「政治とカネ」という「2つの重荷」が、鳩山由紀夫氏の辞任によって「取り除かれた」と発言しています。しかし、これはたいへんな考え違いです。鳩山辞任で「一件落着」というわけにはいきません。しかも菅氏は鳩山内閣の副総理でした。最大級の責任があるはずです。

 菅氏は普天間基地の問題で「日米合意を踏まえる」と発言しました。これでは、県内移設反対の沖縄県民は踏みつけにすることになります。「政治とカネ」の問題でも、小沢一郎氏の国会招致すら実現できないのでは「クリーン」が聞いてあきれてしまいます。

 経済問題はどうでしょうか。最大の問題は、6月に政府が決めることになっている「新成長戦略」がどのようなものになるのかということです。

 菅首相は11日に国会で行った所信表明演説で、日本経済を立て直すための「第3の道」を提起しました。これは、昨年12月の「新成長戦略(基本方針)」でも強調されていたものです。菅首相はこう言います。

 1960~70年代の公共事業による経済成長という「第1の道」は、都市と農村の格差縮小にはつながっても、日本全体の経済成長にはつながらなかった。

 また、2000年代の「構造改革」の名による供給サイドの生産性向上による成長戦略の「第2の道」は、選ばれた企業にのみ富が集中し、国民全体の所得は向上せず、格差拡大も社会問題化し、国全体の成長力を低下させることになった。

 菅首相は、この認識をふまえて、そのどちらでもない「第3の道」、すなわち、環境、健康、観光などの「新たな需要の創造」により雇用を生み、国民生活の向上に主眼を置く「新成長戦略」を進めるとしています。

 「強い企業をさらに強くすることが経済成長につながる」として進められた自公政権下での「構造改革」は、一部の大企業のもうけを増やしただけでした。国全体としては長期にわたって停滞が続き、国民の所得は逆に落ち込みました。この失敗した経済政策の転換が必要なことは、菅氏に言われるまでもなく、明らかなことです。

 「第2の道」を進む民主党政権

 問題なのは、政府が実際の経済政策を、こうした主張とは逆の方向に進めていることです。最近、経済産業省の産業構造審議会が「産業構造ビジョン2010」を発表しました。これは「新成長戦略」策定に向けて出されたものですが、この内容を見ると、「企業の競争力を高めることが第一だ」という、これまでと同じ路線がつらぬかれています。

 「ビジョン」は、「『企業と労働者とどちらを支援するか』という議論は全く無意味である」といい、「こうした国内の分配の論理に眼を奪われていては、グローバル化が不可避な中で、日本から付加価値と良質な雇用が喪失するのみである」などと言っています。

 「一部の企業への富の集中と格差拡大」を問題にする「基本方針」は誤りだといわんばかりです。さらに、「ビジョン」は、競争力強化のために法人税率を引き下げるべきだとして、「まずは、5%程度」と具体的税率にまで踏み込んでいます。

 「ビジョン」の内容は、「第3の道」どころか、菅首相が「失敗だ」と批判した「第2の道」そのものです。しかも、法人税減税のおまけつきで推進するという、いっそう露骨な内容になっています。

 このような議論が政府の「新成長戦略」の基本になるのであれば、菅首相のいう「第3の道」は、まったくの夢物語に終わってしまうでしょう。新首相の姿勢が問われています。

(フジサンケイビジネスアイ 2010年6月14日掲載) 

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