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151-参-厚生労働委員会-20号
2001年06月28日


○小池晃君 日本共産党の小池晃です。
 最近の雇用情勢のもとで、個々の労働者と企業との紛争は増加しております。個別労使紛争の処理のための制度は緊急に必要であり、本法案の内容は十分とは言えないまでも、公的機関の関与で一定の救済効果が期待できるものと考えております。
 私は、実施上の問題についてただしたいと思います。
 これは、大変これから個別労使紛争がふえるだろう、急増するだろうということが予想されるわけでありますけれども、この制度を今年度十月から立ち上げるのに、新たに労働紛争調整官が配置されると聞いております。これは全国で何人配置されるか、配置されない県はどういうふうになるのか、お答え願いたいと思います。

○政府参考人(坂本哲也君) 労働紛争調整官でございますけれども、ことしの十月から北海道、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡、大都市圏を中心に七つの都道府県労働局にそれぞれ一名、計七名配置するということにいたしておるところでございます。

○小池晃君 これは、制度の中身、法律をつくっても、それにふさわしい体制ができるかどうかというのは決定的に重要だと思うんです。私、これは全県に配置する方向でぜひ努力すべきだと思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(坂本哲也君) 今般は相当の事務量が予想される七局にこの紛争調整官を配置をすることにしたわけでございますが、それ以外の局におきましては、既存の人員体制の中で効率的な事務処理を行うことによって対処をしてまいりたいというふうに思っているわけでございます。

○小池晃君 ぜひこれは広げる、実効ある措置にするためにも体制強化していくことを主張したいというふうに思います。
 実際の例に即してちょっとお聞きしたいんですが、例えば今、東京の京王電鉄というところでこういうことが起こっています。バス部門の労働者千二百六十名、これ全員を本人同意なしで一たん解雇した上で新子会社に転籍するという方針が出ております。会社側は何と言っているかというと、それが不服ならやめてもらいたいと。これ会社提案では百五十万円も減収になるんですね。退職金も昇給もなし、各種手当もないと。これ、ひどいんですよ。さらに労働時間も延長で、L勤務というんですけれども、毎日のように朝六時から九時過ぎまで働くと。会社側はどう言っているかというと、転籍については労働組合との協議が調っていれば個別同意は必ずしも必要ないと、非常に不当なことを言っているわけですね。
 東京労働局は、分社化が営業譲渡だとしたら、会社提案を労組が認めたとしても本人同意が必要だという見解を示しております。こういうケースは、労働者は今回のこういう個別紛争処理のスキームに持ち込むことができるのか、その場合どういう処理になっていくのか、お伺いしたいと思います。

○政府参考人(坂本哲也君) 御指摘のようなケースにつきましては、事業主と労働者との間の労働関係に関する紛争であるという限りは、この法律案に基づく紛争解決制度の対象となるというふうに考えております。 

  〔委員長退席、理事亀谷博昭君着席〕

 ただいまお話しございましたような転籍に関しましては、従前の会社の退職、それから新会社との雇用契約の締結、こういう行為を一度に行うものであるという点に着目をいたしまして、転籍を命じるには対象労働者の個々の同意が必要であるという確立した判例があるわけでございます。
 助言、指導におきましては、その事案における事実関係をこういった判例に照らしながら、必要に応じて専門家の意見を聞いて、必要となる助言、指導、こういったものを行うことになるだろうと思っております。

○小池晃君 こういうケースでも個々の労働者がこのスキームに持ち込むことは可能だということですね。 結局、解決の方向として今示されたのは、判例法理を示してということになって、そうすると、それに両者が合意しなければ結局裁判ということになっていくわけですね。私、こういう処理システムをつくることは緊急課題だと思います。基本にどんとやっぱり実体法が備わっていると。例えば、勝手に首切っちゃいかぬとか勝手に不当な扱いをしちゃいかぬという、解決のための実体法を確立することがやはり一番重要なことなんじゃないか。
 我々は、解雇規制法であるとか労働契約法の制定あるいはパート労働法の実効ある改定を求めてまいりました。特に大企業の職場では今やりたい放題のリストラが、こういう実体法がないためにやりたい放題にやられているんじゃないだろうかと思います。救済制度の確立というのは確かに大事なことですが、やはりどんと実体法を据えて、それに基づいて判断していけば処理にも時間がかからないわけですし、やっぱりこのことが紛争解決の最短の道ではないかと、そのように考えるんですけれども、大臣、いかがですか。

○国務大臣(坂口力君) 確かにいろいろの問題が起こってまいりますのにはそれなりの理由があるわけでありますし、できればそれを未然に防止することができれば、それにこしたことはないというふうに私も思います。
 未然に防止をいたしますときに、多様化しましたいろいろの案件を一つの法律でくくってすることができるのかどうかは、それはわからないというふうに思いますし、そこはちょっと私は難しいのではないかというふうに思いますが、しかし大きな企業において、しかも非常に基本的なところで多くの労働者の労働権を侵すような、そういうことがもし法律の不備によって多く起こってくるということであるならば、それは法律の見直しということ、あるいは新しい法律の検討と申しますか、そうしたこともそれは当然やらなければならないんだろうというふうに思います。

○小池晃君 私、そういう法律が今こそ本当に求められていると思うんです。
 きのう、住友ミセスの裁判の判決が出ました。これも既婚女性に対して一律に低く査定をした。ミセスでどこが悪いねんということで裁判を起こして、昇格差別を認めて、差別賃金の支払いを認めたわけです。これの経過を見ると、九二年に調停を求めている。九四年にも婦人少年室に調停を求めていて、しかしずっと解消に至らずに結局十年かかっているんです。やはり、私はこういう実体法、賃金や昇格、配属、あらゆる不利益な取り扱いを禁止する実体法というものをつくっていくことがこういう問題を解決していく最短の最善の道であるということを主張したいというふうに思うんです。
 その上でさらに、この解決をしていく組織の問題なんですが、まず紛争調整委員会の任命、これは基準はどうなるんでしょうか。公平な人選が担保されるんでしょうか。

○政府参考人(坂本哲也君) 紛争調整委員会の委員でございますけれども、産業社会の実情に通じて、法令ですとか判例ですとか、あるいはまた企業の人事労務管理についての専門的な知識を有しておられる方がふさわしいというふうに考えておりまして、具体的には、弁護士などの法曹関係者ですとか社会保険労務士ですとか学者ですとか、あるいは人事労務管理の実務に携わった経験を有しておられる方、こういった方を任命してまいりたいというふうに思っております。
 今般のこの個別労使紛争解決制度が、簡易、迅速そしてまた適正な紛争解決に向けてその機能を十分に発揮していくためには、あっせん委員を初めとして制度を運用する人材にかかっているわけでございます。こういった観点から、委員の任命に際しましては、労使双方から信頼が得られるような公正中立の立場に立ってあっせんを行うことができる方、こういった方を厳正に選任してまいりたいと思っております。

○小池晃君 さらに、法案では個別紛争を地労委でも扱うことができると。中労委、地労委は公労使の三者構成であります。それはなぜかというと、各個別事案に対して、当然労使双方の主張の違いから紛争が起こるわけですから、できる限り公正公平な審議でその是非を判断すると。
 その労働者委員の選任をめぐる問題について聞きたいんですが、労働者委員の選任、選出はどのような基準で現在行われているんでしょうか。

○政府参考人(坂本哲也君) 中央労働委員会の労働者委員につきましては、内閣総理大臣が労働組合の推薦を受けた者の中から労働者一般の利益を代表するにふさわしい適格者を、いろんな要素を、種々の要素を総合的に勘案して任命するということにいたしておるところでございます。

○小池晃君 そこでお聞きしたいんですが、現在の労働者委員のいわゆる系統別の構成について説明していただきたい。

○政府参考人(坂本哲也君) 現在といいますか、この四月一日から中央労働委員会の労働者委員は十五名ということになっておりますけれども、いずれも連合系の労働組合から推薦のあった方が任命をされておるところでございます。

○小池晃君 これまで二十一期から二十六期までの数はどうなんでしょうか、系統別の数について。

○政府参考人(坂本哲也君) 第二十一期から第二十六期までの労働者委員でございますけれども、補欠の委員の選任も含めまして、これまで合計八十二名でございますけれども、結果としましてはいずれも連合系の労働組合から推薦のあった方が任命をされておるところでございます。

○小池晃君 第八十八回ILO総会の覚書ですが、ここではILO代表、代表顧問の選任について、その基準を何と言っているでしょうか。

○政府参考人(坂本哲也君) 昨年の第八十八回のILO総会の覚書、これは全文はかなり長いものでございますけれども、この代表の選任についての基本的な考え方を述べているくだりを御紹介いたしますと、各国の目標は、もちろん場合に応じた使用者及び労働者を最もよく代表するすべての団体との合意でなければならない。
   〔理事亀谷博昭君退席、委員長着席〕
 しかしながら、実現が極めて困難であり、理想としか言えない、こういった表現が盛り込まれているところでございます。

○小池晃君 いや、そこもあるんでしょうが、こう言っていますよね。「労働者階級を代表する労働者団体が数多く存在する特殊な国では、政府は、労働者の代表及び顧問を指名する際にこれらの団体のすべてを考慮に入れなければならない。この方法を取ることによってのみ、政府はその特殊な状態を考慮した上で、関係する労働者階級の見解を総会において代表することのできる人物を選ぶことができる」。そういう記載に間違いないと思うんですが、これはILO代表の選任についての指摘でありますけれども、私は中労委の委員の選任においても同様の考え方があっていいのではないか。
 一九四九年の労働事務次官の五四号通牒では、地労委員の選考に当たって、系統別の組合数及び組合員数に比例させるとしております。九八年九月十八日の当時の甘利労働大臣の答弁でも、中央委員会、中央労働委員会のことだと思うんですが、委員の任命に際してもこの五四号通牒、こういう考え方でやっていると答弁しております。
 基本的に考え方としてこの五四号通牒の基準に沿った公平公正な任命を行うべきということはよろしいですね。

○政府参考人(坂本哲也君) 御指摘の五四号通牒でございますけれども、これまでの国会答弁でも述べておりますように、労働者委員の任命の際に尊重すべきものであるというふうに考えております。
 しかしながら、東京高裁判決でも示されておりますように、この五四号通牒はあくまでも行政の内部的な指針にとどまっておりまして、任命に当たって内閣総理大臣の有する広範な裁量権を制限する性質のものとは言えない、したがって違法の問題は生じないというふうに判断をされているところでございます。

○小池晃君 その問題は後で議論したいと思います。
 この基準に沿って、この基準の考え方で任命していくものだという、基本的な考え方はそうだと思うんです。
 ことし四月に中労委の労働者委員二名が追加任命されていますけれども、この追加というのは特定独立行政法人の発足に伴う追加ということでよろしいですね。

○政府参考人(坂本哲也君) 今回の四月の増員でございますけれども、これは特定独立行政法人の創設に伴うものでございます。しかしながら、増員されました公労使各側二名の委員といいますのは、独立行政法人関係の紛争のみを扱うわけではなくて、法律上は既存の国営企業担当の四名の方と合わせて六名で国営企業と特定独立行政法人関係の紛争を扱うということになっておるところでございます。

○小池晃君 どういう仕事をやることがよろしいかということを言っているんじゃなくて、この二名の追加というのは独立行政法人の発足に伴うものだということは確認できると思うんです。
 この二名が追加されて、その任命がことし四月に行われて十五名になりました。ところで、特定独立行政法人化した機関の労働組合の系統別組織状況はどうなっているでしょうか。

○政府参考人(坂本哲也君) 私どもの方で問い合わせましたところでは、連合系が全農林など約六千八百人、それから全労連系が全通産など約三千八百人、いずれの系統にも属さない方が一千三百人、そういうふうに承知をいたしております。

○小池晃君 さらに、二〇〇四年には国立病院の職員の労組である全医労が加わると。この組合員数は三万二千百名、これも全労連系ということであります。
 今までも労働者委員の選任に当たっては、連合系以外にも立候補者はあったはずなんですね。純中立とかマスコミ文化情報労組会議も加わった労働委員会民主化対策会議、これは百三十二万人擁しております。労働者委員の候補者も出ていたと聞いております。今回の二名の増員分でも、全労連系の委員候補が立候補して、先ほどその他千三百名と言われた職組からも推薦の組合が出ているというふうに聞いております。しかしながら、今回も結果として増員分二人とも連合系だと。
 これだけいわば組織数が拮抗しているということの中で、特定独立行政法人の増員分まで連合系で独占というのは私はちょっと合点がいかないんですね。少なくとも一名は全労連系委員を選任しなければ、やっぱり選任の公平性に私は疑問を持たれても仕方ないんじゃないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。

○国務大臣(坂口力君) 今、委員が御指摘をいただいております問題につきましては、中央労働委員会の労働委員というのは、内閣総理大臣が労働組合の推薦を受けた者の中から労働者一般の利益を代表するにふさわしい適格者をいろいろな条件を総合的に勘案して任命をするというふうになっております。これは御承知のとおりです。
 今回増員されます二名の労働委員といいますのは、既存の四名の委員と合わせて六名のグループで、先ほども話がありましたように、これは国営企業及び特定独立行政法人を担当する人たちであるということをお聞きいたしているところでございまして、十三名おみえになります中で九名が民間で四名が国営と、こういうふうになっておることは御承知のとおりでございます。
 でありますから、今回の場合には、国営企業とそれから特定独立行政法人を担当するということでありますので、そこにお入りになっております労働者の皆さん方の人数で見ました場合に、連合系の方は二十六万人おみえになるわけでございますし、それから御指摘ありました全労連系の方は六千名おみえになるわけでございます。
 委員が御指摘になりますように、今後その組合にお入りになっております人数等がこれから変化をしていく、そしてこれから組み合わせがどう変わっていくかという今後の変化によりまして、当然のことながらそのことは今後の問題の選定に加味されるものと私は思います。

○小池晃君 基本的な考え方を立法当時から見ると、労働組合法に基づいて労働委員会制度をつくられたときに、芦田均国務大臣がこう言っているんですね。大体、組合加入の員数などを参考にして、その組合員の大小によって代表権を案分していくというようなことをするほかに仕方がない。この趣旨に沿って五四号通牒が出された。その後の国会答弁を見ても、やはりこれに基づいてやっていると。
 先ほど裁量権と言われたけれども、やはりこの間一貫して連合系で独占してきたということは、この立法の精神から見ても、あるいはみずから定めて運用してきたこの通牒の基準にも反するもので、裁量権と言うけれども、裁量権の乱用ではないかというふうに思っておるわけです。地労委においても、例えば長野県では田中康夫知事が、五名とも連合でいいのか疑問を持っている、選任方法について根源的な見直しをすべき疑問を持っているというふうに表明をしております。
 今、答弁で、独法と国営企業六名合わせて、案分なんだというふうにおっしゃいましたけれども、でも今後その数の推移によっては検討し直すという御答弁もございました。ぜひこれは公平公正な任命を行うよう、やはりそういう疑問を持たれないような取り組みを進めていただきたいということを申し上げたいと思います。
 さらに、紛争調整委員会の運営の評価の問題ですが、ここは新しくできる地方労働審議会が行うわけであります。この審議会の構成についても、私、公平に行われることが必要だというふうに思うんですが、この地方労働審議会の構成についても幅広く各系統の労働組合代表が入れるように配慮をしていくということを求めたいと思うんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(坂本哲也君) ことしの十月一日から地方労働審議会が新たに設置されるということでございますが、現在、都道府県労働局には地方労働基準審議会、それから地方家内労働審議会、地方職業安定審議会、また地区職業安定審議会、この四つの審議会が設けられておりまして、これらの審議会を再編統合して設置をするということになるわけでございます。
 現在設置をされております各審議会の委員は、公労使の三者の代表ということで構成をされているわけでございます。このうちの労働者委員につきましては、広く労働者一般の利益を代表するにふさわしい適格者を都道府県労働局長が任命するということになっているわけでございまして、新たに設置される地方労働審議会の委員につきましてもこのような考え方で対応していくことにいたしております。

○小池晃君 私、ここにおいても公正な任命ができるようにすべきことを主張して、次の問題に移りたいというふうに思います。
 九八年の夏に大阪の関西医大の附属病院で研修医になりたての二十六歳の青年、森大仁さんが過労死をされています。北大阪労働基準監督署は、ことしの四月二十七日にこの大学と前学長らを労働基準法違反の疑いで書類送検しておりますけれども、この事案について説明していただきたい。

○政府参考人(日比徹君) ただいまの事案でございますが、関西医科大学附属病院の耳鼻咽喉科で勤務していました臨床研修医が、平成十年八月十五日の深夜に急性心筋梗塞で倒れ、翌十六日に死亡したというものでございまして、その死亡した臨床研修医の遺族から、労働時間割り増し賃金、最低賃金など労働基準法及び最低賃金法違反があったとして、平成十二年四月二十一日に北大阪労働基準監督署に対して告訴が行われたものでございます。現在、今御指摘のように、本年四月二十七日に大阪地方検察庁へ書類送検をいたしております。

○小池晃君 この森さん、三月に大学を卒業して、国家試験に合格をして、五月から見学生になった。無給です、この期間は一カ月間。一日十五時間、週七日間、こういう契約になっている。六月からは研修医になった。
 資料をお配りしておりますけれども、資料の一枚目に六月からの労働時間、これは御両親が提訴のときに提出した資料であります。ほとんど毎日、一日の労働時間十五時間以上、朝七時半に出勤をして、帰るのは十時、十一時と。宿直の翌日も通常勤務で深夜まで働くから四十時間連続勤務です。六月、七月で休みは一日だけです。一週間の労働時間、見ていただくようにほぼ百時間。最高百十四時間。法定労働時間は四十時間ですから、三倍近い超長時間労働であります。
 こうした無理な労働の結果、八月に心筋梗塞で亡くなられた。きょうお父さんもお見えなんですけれども、陸上部に所属をされていて、身長百八十一センチ、体重八十キロ。大変体格がいい方ですね。本当に希望に燃えて医師の道を歩み出して、亡くなられた。私も同じ医師として……。
 これは森さんだけじゃないわけです。関西医大の四十人の同級生がアンケートをやっています。平均勤務時間は週八十一時間。八五%は休憩時間は不定だそうです。
 お父さんはこう言っているんですね。私は社会保険労務士として二十六年、お父さんは社会保険労務士なんです、二十六年間やってきたと。企業の労務の指導をいたしてきたが、今の世の中、こんな劣悪な事業所があるとは想像もしておりませんでしたと。
 お聞きしたいんですけれども、告訴があるまでこういう実態を調査する、監督するということはされなかったんですか。

○政府参考人(日比徹君) 告訴の前に、実は御家族から平成十一年五月十一日に申告が行われておりますが、申告以前、この関西医科大学附属病院の研修医の問題につきまして指導等を行ったかどうかにつきましては、記録なり文書を見る限りにおいては実施いたしておりません。

○小池晃君 資料の二枚目を見ていただきたいんです。賃金はこれだけ働いて一カ月わずか六万円であります。六月は加えて時間外割り増し賃金七千五百円、こういう賃金なんですね。
 三枚目に時間外賃金の算定根拠が出ておりますが、これだけ法定時間外労働をしながら、割り増し賃金はゼロです。
 九八年当時の大阪府の最低賃金は幾らになっているか。例えば週四十時間、一日八時間で週五日、一カ月二十一日働いたとしたら、一カ月の最低賃金は幾らになるでしょうか。

○政府参考人(日比徹君) 一九九八年八月で計算いたしますと、当時の最低賃金日額五千三百六十八円。したがいまして、今おっしゃられました条件で計算いたしますと、月額で十一万二千七百二十八円ということになります。

○小池晃君 月六万円という水準は、週四十時間労働だとしても最低賃金にはるかに及ばないわけです。実際には百時間近い労働をやっていると。明らかに最低賃金法違反であります。これは関西医大だけじゃないと思うんですね。もう全国の研修医というのはこういう状況に置かれている。特に私立医大の研修医はみんなそうです。
 私、こういう過酷な実態に研修医の労働時間、賃金が置かれているということを厚生労働省として把握しているのかどうか、お聞きしたいと思います。

○政府参考人(伊藤雅治君) 研修医の労働時間等の実態の把握につきましては、体系的に行っているわけではございませんが、平成六年度に研修医の勤務状況等に関する厚生科学研究を行ったところでございます。 この結果によりますと、研修病院での一週間当たりの日勤は五・五から六日程度、一カ月当たりの日直及び宿直は合わせて五ないし六回程度となっております。また、月収は平均二十一万七千円となっておりますが、御指摘のようにこれは病院間で非常に格差がございまして、特に私立の医科大学におきましては、現時点におきましても五万円から六万円という大学病院がかなりあるのが実態でございます。

○小池晃君 全日本医学生自治会連合、医学連が行ったアンケートによりますと、全国三十二大学、研修医四百人、指導医六百八十六人が回答しておりますが、忙し過ぎて休養がとれないということを国立大学で三四%、私立医大で五五%の研修医が訴えている。改善すべき点としては、激務の緩和と休養保障、これは四割を占めております。 一方、研修医の研修先からの給与は、私立大学では今お話があったように月十万円未満が七四%、六五%の研修医が生活していけるだけの経済保障を求めています。非常にささやかな私は願いだと思うんです。しかも、これは二〇〇四年から臨床研修が必修化されるわけであります。
 こういう実態で、特に今の私立医大の労働条件、労働実態を見て、こういう実態で私は研修に専念なんてとても無理だと思う。これは、指導体制の充実ももちろん重要ですけれども、日本の医療の将来にとってもこれは緊急課題だと、緊急に私は改善すべき問題ではないかと思うんですが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(坂口力君) この研修医の問題というのは本当に、私も経験がございますが、非常に厳しい状況であることをよく存じております。私どものように昔のときには、これは医師国家試験を受ける前にいわゆるインターン制度として存在いたしましたために無給でございましたし、そしてその間を研修するということでございましたが、それではやはり研修医としての立場は守れない、やはり何ら資格もないし、そして財政的な問題も何もないということではやっていけないというので、改善がされたわけでございます。
 しかし、改善されたとはいいますものの、今お話がありましたような内容でございまして、研修医制度というものがやはりもっと大事だと、もっと充実をさせなければならないということが言われております一方におきまして、財政的には現在のような状況でありますことを大変残念に思います。
 したがいまして、今回、この森さん、本当にもうお気の毒と申しますか、立派な体格の方であったにもかかわらず、そうした御病気でお亡くなりになったということを私も本当に残念に思いますし、御冥福をお祈り申し上げたいというふうに思いますが、この森さんの死をやはり無にしないようにしていかなければならないというふうに私も考える一人でありまして、今検討会をつくっていただいておりますが、そしてそこで、病院は今まで何か時間外労働をするのは当然だというそういう雰囲気になっていたわけでございますが、病院といえども、そこで働く人たちが人間らしい労働ができるようにやはりしていかなければならない。
 そのために、やはり研修医の先生方も生活ができ得るそういう体制にしなければならないというふうに思います。もしそれができないということになると、その先生方、今のような状況でありますと、またアルバイトにいろいろなところに行っていただいて、さらにまた体を傷めていただかなければならないということに結びついてまいりますので、そこは十分に考えていかなければならないと思っております。

○小池晃君 本当に日本の医療の将来を支える人をどう育てるかという話であります。七百億から一千億あれば二年間の研修の研修医の分の賃金を保障できるという話もあります。やはりこれは思い切って必修化に当たって措置をとっていくべきだと。
 まず、改善するための取り組みの第一歩として、私、この研修医の長時間労働や低賃金の実態を厚生労働省として直ちに全国的に点検調査すべきではないかというふうに考えるんですが、まず医政局にお伺いしたいと思います。

○政府参考人(伊藤雅治君) 今、大臣から御答弁がございましたように、平成十六年から医師の臨床研修については必修化されることになっております。私ども、今検討会をつくりまして、この実態把握を行いながら関係審議会等の御意見をお聞きした上で、研修医の給与水準のあり方、研修病院における研修医の適正な受け入れ数などを詰めまして、そして関係省庁とも連携をしながら平成十六年に向けて万全を期していきたいと考えているところでございます。

○小池晃君 労働行政という視点から基準局にお伺いしたいんですけれども、全国的に研修医の過酷な労働実態について点検をする、法違反については改善指導するということを私はすべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(日比徹君) 研修の問題でございますが、まずこの場合には研修医でございますけれども、世の中に研修生という形でいろんな類型ございます。大きく分けますと、雇用関係に入って業務に必要な知識、技能等を習得するための研修もございますし、雇用関係との関係ではなく、一定の技能なり技術なりを習得あるいは練度を増すための研修というようなこともあるわけでございます。
 この研修医の場合、どう見るかでございますが、本来は技術、技能を習得するあるいは練度を増すというようなことで行われているものでございますが、関西医大の御指摘のケースのように、具体的にこれを見た場合、労働基準法上の労働者であるというケースがあるのは事実でございます。
 私どもといたしましては、労働基準法上の問題、これがあるということになれば、今般のケースと同様にきちんとした処理をやってまいりたいと思いますし、またその過程では医政局とも十分な連携をとらせていただきたいと思っております。

○小池晃君 研修医が労働者かどうかという問題がありましたけれども、どういう実態がある場合に労働者というふうになるんでしょうか。

○政府参考人(日比徹君) これは個別具体的な状況の判断でございますが、幾つかのポイントといいますか、そういうようなことを申し上げます、余り長くなっても恐縮ですから。
 例えば、具体的な仕事自体の依頼なり業務に従事することについての指示などに対して諾否の自由の有無があるかないか、あるいは業務の内容、遂行方法についての指揮命令、これは具体的などの程度の指揮命令があるのかどうかとか、あるいは時間的、場所的な拘束の問題等々の事情を勘案しまして個別具体的に判断するということでやっております。

○小池晃君 最終的には個別具体的ということでありますけれども、今の基準で言えばもうほとんどの研修医というのは私は労働者だと。
 大体、大学病院で教授がみんないなくなっても全然支障ないと思いますけれども、研修医が全員いなくなったら直ちにその病院は機能を停止すると思います。それだけ医療の中心を支えていると。研修医の働きなくては病院は成り立たないということで言えば、今の基準に照らしても、私は労働者であることは明らかであると思う。やはりこの長時間・低賃金に置かれている実態をこのまま放置すれば、森さんのようなケースが新たに生まれないとも限らない、これは患者にとっても日本医療の将来にとっても重大な問題だというふうに思います。
 これは直ちに全国的に点検を行って、やはり必要な指導、法違反を改善指導していくということをすべきではないかと思うんですが、改めて大臣にそういう方向で御努力願いたいということを申し上げたいんですが、いかがでしょう。

○国務大臣(坂口力君) これは今検討会が既に始まっておりますし、その中でそうしたことも含まれているというふうに聞いておりますし、これは必ず実行していきたいというふうに思います。
 そして、この研修医の問題もそうでございますが、大学病院のあり方そのもの、やっぱりその中で、研修医の皆さん方だけではなくて、そのほか働いておみえになります医師の皆さん方も含めてでございますが、もう時間外労働をすることが何か日常茶飯事になっている、日付が変わらないと帰れないという人がたくさんいる、そういう状況がずっと続いているところがあるわけであります。
 上の教授や助教授が帰らなければ下の人たちも帰れないというようなこともございまして、そうした状況が続いたりもいたしておりますので、そうした附属病院等のあり方全体もやはりこの際に見直していく必要があるんではないかというふうに思いますが、これはしかし文部省の範囲でございますから、私が余分なことを申し上げるのは大変失礼でございますけれども、私の感想でございます。

○小池晃君 私立医大の大学病院については厚生省管轄ですから、もう大いにやっていただきたいと思う。 最後に、残る時間で、六月二十六日に閣議決定されたいわゆる骨太方針、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」の問題、ちょっと幾つかお伺いしたい。
 この中で、社会保障個人会計の構築がうたわれております。私、この個人会計というのを導入されると加入者の間での損だ得だという論議が先鋭化するんじゃないだろうか。そもそも社会保険というのは個人のリスクを社会で支える制度だということで言うと、その理念から照らしても大変問題が大きいのではないか。それから、例えば医療や介護という点で見ると、これは給付と負担のレベルが個人レベルで見合うような形になるものじゃないわけですね、そもそもの制度からいって。これを個人単位で例えば月別に示すなんというのは、私は実務的にも不可能だと思う。
 この個人会計というのは大変問題が大きいんではないかというふうに考えるんですが、いかがでしょうか。

○政府参考人(石本宏昭君) 社会保障は、国民が生活する上でさまざまな困難な事態に直面しましたときに、相互扶助と社会連帯の考え方に立ちまして社会全体で支え合うという仕組みでございます。したがって、国民に社会保障の給付あるいは負担をわかりやすく情報提供していく、または制度に対して理解を深めていくということは大変重要な問題だと認識しております。
 今般の諮問会議で御提言のございました社会保障個人会計(仮称)につきましても、このような情報提供の一つの具体的な方策という観点で検討すべきという趣旨で私ども理解しておりまして、御指摘の損得論を助長するおそれがないかなどの点に十分配慮しながら検討していきたいと思っております。
 また、医療や介護などいわゆる短期保険につきましては、給付と負担を並べて比較することが適当かどうか、あるいは実務面で定期的に示すこととコストとのバランスといったような課題がございまして、この点十分配慮していかなければならないと思っておりますが、一方で、医療や介護保険につきましても、保険料の状況とあわせて給付の内容につきまして国民にわかりやすく説明していくということはまた重要な問題でございますので、いずれにしましても、今後総合的に検討していきたいというふうに考えております。

○小池晃君 さらにプライバシーの問題もあるわけですから、社会保障番号制度を言われていますけれども、問題が多過ぎるんではないかというふうに思います。
 それから、株式会社方式による経営の見直しということもうたわれておりますけれども、そもそも人の命を預かる医療に営利性というのはなじまないのではないか。私は、株式会社による運営を認められているアメリカでも、株式会社による参入というのはマイナスが大きいというふうに言われているんじゃないかと思うんですが、いかがですか。

○政府参考人(伊藤雅治君) 世界的に見まして、株式会社による病院経営が広く行われている米国の事例というのはかなり例外的な状況だというふうに私どもとしては理解しております。そこで、株式会社の参入を認めております米国の事例につきましては、マイナス面を指摘する評価もあり、利益率の高い医療への過度の集中などの問題点も指摘されていると承知をしているわけでございます。

○小池晃君 最後に大臣にお伺いしたいんですけれども、老人医療費の伸びの抑制という問題であります。 今度の骨太方針では、「伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。」というふうに言われている。この中身は一体どういうものなのか。一部、当初、総枠制ということも言われて、私も予算委員会でこの問題を大臣にただしまして、必要な医療の積み上げではなくて、あらかじめ上限を設定して、それを超えたら保険診療の対象としないようなやり方、これはやはり医療の特性を無視したようなやり方ではないかというふうに考えている、暴論ではないかというふうに申し上げたんですが、その辺について、この「伸びを抑制するための新たな枠組み」というのはどのようなものを想定していらっしゃるのか、お聞きしたいと思う。

○国務大臣(坂口力君) 厚生労働大臣としての意見というのは意見として十分実は申し上げているわけでございます。
 それは、いずれにいたしましても、これから高齢者の人口というのはどんどんとふえていくわけでありますから、高齢者医療の割合というのがふえることは、これは間違いないわけでございます。人口増があるにもかかわらずその分野を減らせと言われましても、それは減らすわけにはまいりません。ただ、いろいろなところで医療の中にむだがあってそしてふえていく部分につきましては、これは極力制限するように我々も努力をいたします。しかし、人口増によるところを減らせと言われましても、減らすことはできません。
 そして、経済の動向、いわゆる経済の成長の動向と大きな開きのないようにということを言われるわけでありますけれども、それも高齢者がふえることによってふえる分はこれはやむを得ません。それまで減らせと言われてもそれは減らすわけにはまいりませんので、むしろ経済の動向を人口の変化に合わせてもらう以外にありませんと、こう私は申し上げているわけでございます。
 したがいまして、この医療費の増加につきましての新しい枠組みというのはまだ何も決まってはいないわけで、これから決めていくわけでございますが、そうした高齢者の増加というものを念頭に置きながらやはりこれは決めていかざるを得ないというふうに私は思っております。

○小池晃君 枠組みの問題についてですけれども、要するに、そういう高齢者の増加分は見るんだと。上限をあらかじめ設定してそれを超えたら保険で見ないというようなそういう考え方は、私は医療の特性を無視した暴論だと思いますし、あるいは今一部で出ております老人の診療報酬の一点単価を下げるという話も浮かんでいるようでありますけれども、これもやはり老人医療の現場を荒廃させると。 高齢者一人当たりの医療費というのは事実上年々低下しているわけでありまして、今本当に必要なのは、保健予防活動を高めてやはり健康な高齢者をふやしていくことだ。同時に、むだを削るのであれば、薬剤費とかあるいは医療機器、そういう面にメスを入れる。安全性や有効性を確認した上で検証した上で、例えばジェネリック薬品の普及を図るというようなことを大いにやっていく。ほかにやるべきことはいっぱいあるんだということを申し上げて、質問を終わりにします。
 

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