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日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008] 日本共産党参議院議員・医師 小池晃 アーカイブ[〜2008]

156-参議院通常国会 厚生労働委員会 労働基準法改正案審議

2003年6月12日(木)


“ニセ裁量労働制”が横行

裁量労働制を野放し 労働時間把握させよ


小池晃君

 日本共産党の小池晃です。

 労働基準法、今回の法案については、衆議院での修正で解雇権濫用規制、これが法制化された、そこについては本会議でも述べたように評価をしたいというふうに思っております。しかし、重大な問題点多々残っておりますので、ただしたいと思います。

 最初に、解雇規制ルールについて一点参考人にお聞きをしたいんですが、衆議院で我が党の山口富男議員が客観的に合理的な理由を欠くという中身には整理解雇四要件が含まれるかという質問をしたのに対して、局長は含むというふうにお答えになっていると思うんです。含むのであれば何らかの形でこれは明示すべき、明確にするべきではないだろうか、ここを省令などで具体的に明示するべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 御指摘のいわゆる整理解雇四要件でございますけれども、これは御案内のようにまだ判例ではございませんで高裁レベルの判断の要件でございます。

 これは、新設のこの条文で言いますと第十八の二でございますけれども、ここで明らかにしております解雇権濫用法理、こういった法理の下で、今質問の中でおっしゃいました客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に該当するかどうかの具体的な判断基準として、高裁レベルでございますけれども、下級審の裁判例において用いられているというものでございます。

 したがいまして、この整理解雇四要件、こういったものを省令に明定するということにつきましては、この解釈というものを法律上はっきりさせてしまうわけでございまして、法律の委任なくこういった解釈を示すということは適当ではないというふうに考えています。

小池晃君

 ただ、そこのところでやはり明確にするということは、これは周知徹底必要だということは再三おっしゃられているので必要だと思うんですね。ですから、省令でなければ何らかほかの手段で、これはやはり施行通達あるいはコメンタール、いろんな手段あると思うんですが、何らかの手段、統一した基準で明文化してやはり周知徹底を担保するということをすべきではないかと思うんですが、その点いかがでしょう。

政府参考人(松崎朗君)

 私申し上げたのは、この法律の今申し上げました客観的に云々というところの解釈として、これは法律、省令、通達、そういったもので具体的な裁判というものを拘束する格好で解釈を示すということは、これは行政法ではございませんので難しいということを申し上げたわけでございまして、ただ、これは従来からやっておりますように裁判例の PR といたしまして、今後この法案が通った場合には、ただいま申し上げました十八条の二のこの解釈といいますかこの運用、そういったものの裁判例、判例、そういったものをまた周知徹底していくわけでございますけれども、その応用例の一つとして整理解雇についてはこういう裁判例があるといったこと、そういったことはパンフレット等できちんと PR はしていきたいというふうに考えています。

小池晃君

 さらに、大きな問題点である有期雇用の問題、お伺いしたいと思うんです。

 最初に、そもそも今回この三年に原則延長していくという拡大によって有期雇用がどの程度の規模で拡大するというふうにお考えなのか、お聞かせ願いたいと思います。

政府参考人(松崎朗君)

 この有期労働契約の上限期間を今おっしゃったのは一年から三年という点だと思いますけれども、これにつきましては、確かにこういった検討をする前提といたしまして、これはほかの委員に対する御説明でも申し上げたところでございますけれども、いろいろ平成十三年における調査、こういったところもやりまして、現在の実際に有期労働契約で働いておられる方のアンケートでございますけれども、そういった方の中で、やはりもっと長い期間、現在よりももっと長い期間が望ましいといった方が四割近くいるといった状況ございます。

 そういった労使双方からやはり一定のニーズがあるといったことで、この最低基準として罰則をもって規制している労働基準法というものの性格から、一年ということでがちっと決めるというか、決めておくということは緩めてもいいんではないかといったことで今回三年ということを考えたわけでございます。

 したがいまして、こういった背景があるわけでございますけれども、実際に三年にした場合にそれはどれだけ今一年未満の方が三年になるのか、また二年になるのかといったこと、そういったことにつきましてはなかなか定量的に推測することは難しいというふうに考えています。

小池晃君

 定量的にどれだけ拡大するか見通しが持っていないということは、やはり常用代替にならないんだとおっしゃるんですが、私は逆に根拠薄弱ということになるのではないかというふうにも思うんです。

 本会議でも、これは常用代替進むのではないかということを私、お聞きしました。総理は、これは企業戦略で定まるのだから懸念はないというふうに答えた。問題はその企業戦略だと思うんですね。総理は何と言ったかというと、企業戦略、人材戦略の一環として、長期的視点に立った企業内能力開発、労使間の協調的な信頼関係の育成といった点を含め、人員構成、配置、キャリア形成の在り方など、種々の観点を総合的に考慮して定まるものと考えていると。これは結局、企業というのは目先の利益だけ考えるんじゃなくて非常に長期的な見通しを持って、そして長期的な視点、常に欠かさず労働者の能力を生かす方向でしっかり考えて努力していくと、私にはそういうふうに聞こえたんですね。

 これ、厚労省も日本の企業というのはこういう企業戦略を持っているというふうにお考えでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 企業の経営戦略そのものについて私ども担当が若干違いますので確たることは申し上げられませんけれども、やはり人材戦略といいますか人材活用、そういったマンパワーの活用という面については、ある程度いろいろ学者の先生の御意見等も聴き、また我々も勉強してきたつもりでございます。

 そういった中で、やはり我が国の企業の場合、これだけ、今最近ちょっと調子が悪いわけでございますけれども、これだけ戦後発展してきたこのベースたるものは、やはり一言で、言い方悪いかもしれませんけれども、一言で言えば人的資本主義といいますか人材資本主義、そういったもの、金融資本主義ではないそういったものではないかといったことはよく言われているわけでございます。

 そういったことで、やはり人を大事にする経営、人を大事にする企業といったもの、人を大事にするというのは甘やかすのではなくて、やはりその能力を開発し、その能力の開発に見合った、成果に見合った処遇をしていくということで、労働者も生き生きと働くことができるといったそういった人事制度といいますか、そういったものがやっぱりベースになってきたというふうに評価されているんだと思っております。

 これは、今後におきましてもこういった基本的な部分といったものは大きな変更ではなくて、これが基本になって今後の産業といったもののベースになっていくんじゃないかというふうに私どもは考えています。

小池晃君

 私は、そういう見方というのはちょっと非常に性善説的といいますか、今の日本の企業の在り方というのは果たしてそのようなものだろうかと。先ほど局長は、短期的な視点の企業もあるけれども、そういうところつぶれるとおっしゃったんですけれども、そういう企業こそ今幅利かせているというそういう実態が私はあるんじゃないかと思うんですね、もっとリアルに見るべきではないかと。

 本会議でも指摘しましたが、企業はどういう戦略持っているかというと、国民生活白書でこう言っているんです。今後の雇用拡大について、新規学卒者の採用を拡大すると答えた企業は九%です。それに対して派遣労働者の拡大と答えたのは三七%、臨時、パートの拡大は三八%です。国民生活白書ではこうした企業戦略が若年の雇用の悪化を招いているというふうに書いているんです。

 具体例で言うとどうか。例えば、航空三社の客室乗務員がこれは契約社員化しているわけです。これ、九四年から客室乗務員の新卒採用は原則として契約制です。九七年には正社員八千五百人に対して四千五百人、だから三五%が契約社員です。全日空では契約制が全体の四三%になっています。今もう新規採用はなくなったのでだんだん減ってはいるんですが、そういう状況です。現在も、すべてが契約社員を経て正社員になると。三年後に正社員になるんだけれども、査定があって全員なれるとは限らない。契約制の期間は時給制。月給は十五万から二十万で、正規社員の半分であります。契約は一年ごと更新で、最長三年まで。更新できるか正社員になれるか不安だから病気でも休めないと、こういう実態が言ってみれば日本の代表的な企業である航空三社で起こっている。

 東武鉄道の一〇〇%子会社、東武スポーツというところがあります。ここでは何が起こったかというと、正社員だった女性労働者、あるいはその東武が持っているゴルフ場のキャディーさんとか保育士七十人、これもみんな明確な理由なく契約社員扱いになったんです、去年。いったん全員解雇して契約社員として再雇用だと。有期の契約社員になると一年ごとの契約、賃金はすべて出来高払、月平均では十数万円の賃下げになると。昇給はない。次の年の再雇用の保証もない。

 航空三社、東武、本当に代表的な企業でこういう事態が今起こっているわけですね。一層広がっていると思うんです。

 私は、日本有数の企業が、このように長期的な視点を持って、先ほど局長おっしゃったように、人が資源だと、人を育てるんだというようなことではなくて、とにかく目先の経営を少しでも楽にしたいんだと。マンパワーの確保は、もう低賃金の有期、パート、派遣、不安定雇用でやる。私は、今これが日本の企業の経営戦略のだんだんだんだん基調になりつつあるという状況になってきているんじゃないかと思うんですが、局長いかがでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 確かに、感じの、感想の域を出ないのかもしれませんけれども、やはりそういったことが確かに現在も起こり、過去かなり何かはやったといいますか、流行したといった感じは持っております。

 しかしながら、午前中も申し上げましたように、今その反省というものが起こりつつあるんじゃないのかと。特に、これは申し上げましたように、商社の話でも申し上げました。また、日本を代表する有数なある製造業でも、技能の伝承といったものも、もう技能の伝承が途切れてしまったと。このまま行ったら五年後にはもう本当に我が社の技能がなくなってしまうという危機感を持って、技能をどうやって伝承していくかということで、正規社員の採用、更には中高年の、更には定年後の、定年延長しながら技能を伝承していくといったことを再構築しようといった企業が出ております。

 そういったように、確かに表面的に目先のそういったものを追うというのもあるかもしれませんけれども、大勢としては、やはり将来的に考えてだんだんいくという一つの反省が起こっているんじゃないかというふうに私は期待しています。

小池晃君

 そういう企業は本当にごく少ないのではないかなというふうに私は思います。

 六月十日に内閣府が取りまとめた、先ほども議論になりました五百三十万人雇用創出プログラム、これ見ましても、ほとんどサービス業ですね。それで、二〇〇五年までに五百万人、二〇〇七年までに六百万人、最大六百四十三万人の雇用創出うたっているんですが、この目玉、これ派遣業ですよ。約二百万人が派遣業、警備業などとされているわけですね。

 これは、派遣労働などの不安定雇用が雇用の最大の受皿であるというふうに政府の方だって認めざるを得ないという状況があるんではないだろうかと。当面の雇用のやはり受皿として、正規雇用というよりは、不安定雇用の拡大に頼らざるを得ないということは、私は政府自身の戦略の中にもう現れてきているのではないかというふうにも思うわけです。

 こういう中で、この間、御答弁されているように、常用代替への、常用代替は起こらないと。確かに、三年雇用になったとしても、今、正規で雇われている人がみんな有期雇用に代わるということは、それは直ちに起こらないというのはそれは確かにそうかもしれません。

 しかし、私は、これ、三年というふうになれば何が起こるか。これは、新規学卒者の雇用、こういうのは専ら有期でやっていこうというふうになるんじゃないだろうか。これが主流になっていくということは否定できないんじゃないか。あるいは中高年のリストラのために、この三年雇用ということを活用していくという企業が出てくる、これは大いに考えられることではないかと思うんですが、そういう危険性、局長はお考えになりませんか。

政府参考人(松崎朗君)

 確かに、そういった点も懸念はあるわけでございますけれども、やはり実態といたしましても、確かに、有期といいますか、日雇プラス臨時という方の割合というのは、平成九年の一〇%ぐらいから平成十四年の一三%ぐらいまで徐々に増えております。

 しかしながら、これは、新しいこういった三年とか、こういったものは新しい制度ができたことによる増加ではなくて、やはり全体の、トータルとしての流れじゃないかと思っておりますし、またこういった制度につきましては、やはりこの制度を作ったからこれによってということになりますと、やはり企業においてもアンケート調査、そういったものによりまして、こういったやはり契約というものは双方の納得でするわけでございますし、またいい人材を採ろうとした場合、そうした場合にはやはり相手の条件といったものも考慮しなければならないといったことから、やはりその人材のこと、何でもいいというのならまた別かもしれませんけれども、そういった点を含めまして、そんなに一挙に代替といったものは急激に進むというふうには考えておりません。

小池晃君

 局長も懸念があるというふうにおっしゃるわけであります。

 大臣、今までの議論を踏まえてお聞きしたいと思うんですが、今回、有期三年、そしてさきの派遣法で派遣三年。私は、こういうやり方をすれば、新規学卒者の採用を有期あるいは派遣ということで三年、こういうふうにやろうという企業出てくる危険性が非常に大きいと思うんですね。例えば、大卒で二十二歳。三年有期で二十五歳。六年で二十八歳。若い力できるだけ利用するだけ利用して、企業戦略に合わせて雇止めをしていくということだって考えてくる、こういうやり方、私は急速に広がらないというふうには言い切れないと思うんですよ。

 あるいは、中高年リストラの手段として、今、会社分割して子会社へなんということを大分やっています。NTT リストラなんか典型ですけれども、そういう手段の一つとして遠隔地への配転、あるいは賃金切下げ、そしてあるいは三年有期を選んでくださいというようなことに使われる危険性というのは大いにあるんじゃないかと。

 私は、三年になるというのはそういう意味では非常に企業にとっては使い勝手のいい制度になる、今までの有期雇用と私は質的に違う形で広がっていくという危険性があるのではないかということを大変強く懸念をするわけですが、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 私は、現在のままで、いわゆる常用雇用と、そして派遣業やあるいはまた契約雇用というものがなかった場合に、常用雇用とパートなどがずっと中心になっていく、常用雇用かパートかという私は選択になっていくだろうと。確かに、パートの部分、どんどんどんどんこれは増えてきているわけですね。

 それで、私は、パートという形がずっと増えていくということがいいのか、それとも有期雇用のような形で、これは有期ではありますけれども雇用であることには間違いがないわけで、私は、そうしたパートよりも有期雇用という形になって、そしてそれがおっしゃるように三年なら三年、そしてまたそれが六年になるということになる人もあるでしょうし、三年のところで、それじゃ、お互いに、常用雇用になってくれますかということになる人もいるだろうと私は思うんです。

 お若い皆さん方、よく言われますように、七、五、三と言われますように、三年、五年、七年というふうなところでどんどんと若い人たちも自ら辞めていくという人たちも多いわけでございますから、双方が、よし、ここでそれじゃ頑張ってくれますか、是非ひとつお願いしますよというような形で、それが三年目なのか、六年目なのか、五年目なのか、それはそれぞれにケースによって違うと思いますけれども、なるということは私は多分にあり得るというふうに思っております。

 したがいまして、小池議員がおっしゃるように、常用雇用対契約雇用という形で見ました場合と、一方においてパートとかアルバイトとかという皆さん方と比較をした場合のこの契約雇用というものとの位置付けというのは、私はこれは違うと思うんですね。そうした意味で、多様化されてまいりましたし、そしてより良い仕事の場というものが与えられるということにも私はなり得るというふうに思っております。

 そして、そこから先どうなるかということについては、それは先日来、私、申し上げておりますように、経済の動向というのが非常に大きな影響を与えることだけは間違いがないというふうに思っております。いわゆる需要と供給の関係によって大きな影響を受けることは事実でございますから、そういう意味で経済の状態を良くしていくということは、これは非常に大事なことだというふうに思っておりまして、そうすれば自然に常用雇用の方に流れていくと私は思っている次第でございます。

小池晃君

 大臣のお話をお伺いすると、パート、アルバイトということとそれ以外という分け方をされるんですが、私はそういう分け方は妥当ではないんではないかと。本当の正規雇用ということと、やはり契約社員、有期雇用ということは、これは決定的に身分違うわけですよ。

 三年と言うけれども、別に三年保証されるわけじゃない。三年を上限として使用者が決めるわけです。三年になったからといって三年間契約が、雇用が保証されるということになるわけではないわけですね。

 そういう点で、こういう非常に不安定な、特に若年者にとってみれば先の見えない雇用という、それでもパートよりいいんだ、アルバイトよりいいんだ。私はそれでは済まないんじゃないかと。やはり、未来ある青年労働者が本当に将来展望できないような、そういう有期雇用という形にどんどんどんどんその入口が閉ざされていくということで果たしていいんだろうか、こういうやり方でいいんだろうかということを私言いたいわけです。

 将来、常用雇用が立て直っていくと、常用雇用中心の、大臣何度もいろんなところでおっしゃっていますけれども、そういうふうにおっしゃっている。それはそれで私どももそうだというふうに思うんです、そういうふうにしたいと。日本経済を立て直して、やはり常用雇用中心で完全雇用ということを実現するような社会に向かっていくんだと。それは大臣と私、おっしゃること、同感であります。

 しかし、今これだけ厳しいときに、じゃ何をすべきなのかと。どんどんどんどん不安定に流れるというのは、これは別に政策でやらなくたってもう労働者そうせざるを得なくなっている。企業の方も、そういう行動を取っているわけですね。そういうときに、怒濤のように不安定雇用が進んでいる、そういうときに厚生労働省はこういう流れに立ちふさがることこそ私は厚生労働省の役割ではないかというふうに思うんですよ。こういう流れに歯止めを掛けて、やはりしっかり正規雇用を拡大させていく、そんなこといったって企業はなかなかやれないわけですから、そこで頑張って拡大させていく、そして雇用の安定化の方向にこの流れのかじを切り替えていく、これこそ私厚生労働省の仕事だと思うんです。それ抜きに厚生労働省なんて何のためにあるのかということになるんじゃないか。

 それなのに、今回のように三年雇用という形で有期雇用を拡大していく、不安定雇用を促進していく、そういう政策を取ることは、私は、将来常用雇用中心の時代にしたいんだという大臣のおっしゃることと照らしても大変矛盾がある。こういう流れ、こういう時代だからこそ、私はしっかりと今の雇用の不安定化という動きに対して、歯止めを掛けることこそ厚生労働省の仕事であるというふうに考えるんですが、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 そこが小池議員と違うところなんです。現在のままでほっておけば、これはアルバイトのままでいくかもしれない、パートのままでいくかもしれない。より不安定になってしまう。より不安定な人が多くなっている。この現実を、できるだけ正規の方に近づけていくことの方が私は大事だというふうに思う。

 このままだったらそれはアルバイトの人は増えるかもしれないですよ。だから、今フリーターと言われる人たちが増えてきている。この状況を、いわゆるパートやアルバイトだけをやっているという人ではなくて、少なくとも三年なら三年は、あるいは五年なら五年は、これはちゃんと正規の、それは契約であろうと、正規のこれは職員だというふうに、従業員だというふうになるようにしていくということの方が私は大事だと思う。方向は別に私は間違っていない。

 ただ、これから先、しかしそうはいいますものの、これをだんだんといい方向に向けていくためには努力が要るというふうに小池議員がおっしゃるのであれば、私もそれはそのとおりというふうに思っておりまして、それはそういういい方向に流していかなけりゃいけないですから、努力はしなければならないというふうに思いますけれども、今のままで置いておくよりも、私はそうした方向で新しい働き方を認めて、そしてできるだけ常用雇用の方向に向けて流していく流れを作っていくということが今我々に課せられた仕事だというふうに思っているわけであります。

小池晃君

 長く働きたいという希望にこたえる、そういう方向に持っていくということであれば、私はほかにやるべきことがあると思うんですね。やはり、今の不安定な雇用の中身というか、均等待遇の法制化、こういうことこそ本当にやっていくということも必要だろうし、長くとおっしゃるけれども、先ほど言ったように、三年にしたからといってこれは三年雇用が保証される制度ではありません。使用者の側に上限が一年から三年になるだけでありまして、これは幾らでも短くするということは可能なわけであります。三年になるから三年保証されるというわけじゃない。

 しかも、長くと言うんだったら、雇止めこそ歯止めを掛けるべきと私思うんです。大臣、そういうふうに長くという方向で、できるだけそういう方向にこたえるんだと、一歩、二歩でも前進だとおっしゃるんであれば、大臣は衆議院で、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する基準を定めるというふうに答弁されていますけれども、私はこれはすごい大事だと。やはりこういう基準というのを、告示レベルにしないでしっかり立法化を含めて本当に実効のある制度に、雇止めを食い止めるという中身にしていく、こういうことこそ必要なんじゃないですか。今の大臣の御答弁に照らしても、私そういう方向が求められていると思いますが、いかがでしょう。

  〔委員長退席、理事中島眞人君着席〕

国務大臣(坂口力君)

 できるだけそういうふうにしていきたいというふうに私も思っておりますが、しかし、雇われる側も一年で辞めたいという人もあるわけですよ。一年で辞めたい。だから、野党の皆さん方からも申入れがあって、一年たったら、申入れがあれば辞められるようにしてほしいというお話があって、それも一年を経過をすれば自由に辞められるようにしたわけであります。

 ですから、中学校や高等学校や大学を卒業した皆さんの中にも三年、五年というような期間でどんどんと辞めていく、半分ぐらいは辞めていかれるわけでありますから、そういう事態もある中でどういう安定雇用を作り上げていくかということは、いわゆる試し運転みたいな期間も要るわけですね、お互いに。雇う側も要るかもしれない、しかし、雇われる側も要るかもしれない。

 そうした中で、よし、自分はやっぱりこの企業の中でならやりたいと、このまま勤めたいというふうに思う若い人たちも出てくるでしょう。また、雇った経営者の中にも、この青年なら是非ひとつ常用雇用としてどうしてもこれは残ってもらいたいという人たち出てくるだろうと思うんですね。これ一致しないといけないわけですから、私はそういう関係を自然に作っていくということが大変大事だというふうに思うわけです。

 先ほどおっしゃったように、無理に辞めさせるといったようなことが、それは余りそういうことを認めるようにしちゃいけませんから、そういうことに対する歯止めも何か作らなきゃいけないでしょう、そうしたことも考えていきますということも申し上げたわけです。

小池晃君

 それから局長に、そういう歯止めは私は絶対に必要だというふうに思います。

 局長にお伺いしたいんですが、新卒者の採用、やはりこういう有期がどんどん拡大するようなことについては、これは何らかの規制を行うべきではないんだろうかと。あるいは中高年のリストラの手段に利用される、こうしたことに対する歯止めも必要なんではないか。常用雇用の代替にならないんだと、そういう懸念ないんだというふうにおっしゃるんであれば、是非そういう歯止めの措置、これは必要ではないかというふうに考えるんですが、その点はいかがですか。

政府参考人(松崎朗君)

 ちょっとこれ最低基準という労働基準法の範疇から離れるかもしれませんけれども、まず、新規採用の場合、これは正に新しく採用の自由ということで、正に双方の労働契約の締結なわけでございます。そういったときに一定の歯止めをという、一定の方向付けといったこと、これは大きな契約自由の原則の変更になるということで、これは慎重な検討が必要だというふうに考えております。

 また、中高年を始めといたしまして、いわゆるリストラによる解雇とかそういった問題をおっしゃったと思いますけれども、そういった問題につきましては、やはり解雇でございますとか、それから就業の変更、労働条件の変更、賃金の切下げといいますと、これは契約変更ということになるわけでございまして、それぞれ裁判例、判例におきましても、いろいろ合理的な理由がない限り、単純に言ってしまいますと、合理的な理由の判断ということでその効力が有効、無効というふうに判断されるといったような裁判例が集積されていると思っておりますので、そういったところで担保されているんじゃないかというふうに考えております。

小池晃君

 いや、私が言っているのはそういう一般論ではなくて、有期雇用を拡大するという、そういうことであれば、それで常用代替の懸念はないというふうにおっしゃるんであれば、中高年のリストラなんかにこの有期雇用がどんどんどんどん利用されるようなことがないような、判例というふうにおっしゃいました。そういった判例に沿って、例えばそういう歯止めを、出向や転籍、契約変更が人権侵害を伴う場合などの歯止め、この有期雇用に関して、そういったものも必要なんではないかと、そういう歯止めも作る必要はないというふうにおっしゃるんですか。

政府参考人(松崎朗君)

 そういった点は、今申し上げましたように、やはり契約なり就業規則の変更といった問題になりますので、民事上の判断によるというふうに考えています。

小池晃君

 私は、一方でこれだけ不安定雇用を拡大するというようなことを出してくるのであれば、歯止めを徹底的に掛けるということは最低条件だと思う。歯止めなくして有期雇用の拡大を図るということは、懸念はないとおっしゃるけれども、常用代替を促進する、雇用不安をかえって強めるということになるのではないかという懸念をますます強めるわけであります。

 引き続き、裁量労働制の問題お聞きしたいんですが、先ほども議論ありました過労死の問題です。昨年度、過労死、過労自殺の実態についてまとめが出されました。これによれば、過労死百六十件、過労自殺四十三件、増加の原因は認定基準の緩和なんだという説明がございました。

 しかし、先ほども議論ありましたが、私、この脳・心疾患の労災認定の対象者をざっと見ますと、専門技術職、管理職、事務職、こういった人が多いわけです。なぜこうした職種に過労死あるいは脳・心疾患の労災認定が多いというふうに分析されているのか、お聞きしたいと思う。

政府参考人(松崎朗君)

 確かに、これは昨日発表したものもそうでございますけれども、ここ数年来の傾向でそういった点があるわけでございます。

 ただ、今、委員がおっしゃいましたのは、専門技術職、管理職、事務職に多いということを言われたわけでございますけれども、また一方、年齢層で見た場合に、やはり五十から五十九歳の層が非常に突出しておりまして、その次に四十から四十九という、要するに我々一般的に、常識的に考えられる年齢層の方が多いということでございまして、やはりこういった年齢層の方、先ほど言いました専門技術職でございますとか管理職、そういった方が、やっぱり中高年齢者が多いといったところ。さらに、中高年齢者につきましては、これは一般健康診断等でもやはり有所見という方が半分といったようなことがありますように、いわゆる生活習慣病といいますか、成人病といいますか、そういった兆候を示す方が出てきているといった点、そういった年齢構成、そういった点から影響しているんじゃないかというふうに考えております。

小池晃君

 そういったって、別に四十代、五十代の人の中で専門技術職が圧倒的に多いわけじゃないわけで、それはおかしいですよね。それは、五十代に多いのはそれは年齢的にそれは当然でしょう。しかし、その中であっても、職種別に見れば専門技術職、管理職というところが突出しているというのは、やはりこういった職種に長時間労働あるいは裁量労働制とかみなし労働の対象の人が多いわけですけれども、こうした職種のやはり専門技術職あるいは管理職といった人たちの長時間労働ということが背景にあるということも、一つの背景としてあるのはこれは当然ではないですか。

政府参考人(松崎朗君)

 特に、おっしゃったような専門技術職、管理職それから事務職、そういったところに長時間労働が多いといったようなところをリンクしてというふうには、私どもも詳しい分析というのはできていないというのが実情でございます。

小池晃君

 これは大事なことですからしっかり分析してください。

 私は、今回この裁量労働制の対象者となる業種に過労死なんか一杯出ているわけです、これ適用拡大するとどういう事態になるのかということを想像すると、大変背筋が寒くなるわけであります。

  〔理事中島眞人君退席、委員長着席〕

 大臣、大臣は医師でもあります。私も現場で医師をやっておりました。やはり心・脳疾患、心筋梗塞あるいは脳梗塞、脳出血、もう本当に突然の出来事で倒れる。一家の大黒柱を失う。本人の無念さももちろんですし、家族の苦痛、あるいはその後の生活の困難、大変な苦しみである。私は、こういう疾患が本当に業務に起因するなんということは絶対にあっちゃいけないことだというふうに思うんです。大臣としてこういう過労死の実態というのをどう考えておられるか。

 大臣は、もちろん過労死は根絶しなければいけないというふうに、そういう認識だと思うんですが、その点、こうした事態を生まないように、私は、厚生労働省、これは医療の厚生省と労働の労働省一緒なわけですから、本当に省を挙げてこういう過労死を起こさないという立場で、省の全力を挙げることが私責務ではないかというふうに考えるんですが、大臣のお考えをお聞かせ願いたいと思います。

国務大臣(坂口力君)

 小池議員が今御指摘になりましたように、過労死といいます場合には、脳内血管におけます障害、それから心臓疾患等々、そうした病気が中心でございます。ですから、特に年齢的にもそうした脳内障害やあるいはまた心臓障害等が起こしやすいような年齢になってくれば、なおさらのこと起こしやすい状況になっているというふうに思われます。

 したがいまして、こうした皆さん方が過労死にならないようにしますためには、働く時間というものを企業がやはりある程度守っていくということがこれはどうしても大事なわけで、同じような時間でも人によりましてそのことが受けるストレスは違いますから、同じような仕事でありましても人によりましてそれを受けるストレスの強さが違って、そして障害を起こす人もあれば起こさない人もある。それはあり得ることだというふうに思いますけれども、トータルでいえば、できる限り過労死を起こすような時間を少なくしていく、いわゆる労働時間を抑制をしていくということが常に大事でございます。

 しかし、企業におきましても、何か特別な状況がありますときに、一気にその仕事をやってしまわなければならないということもそれはあるでしょう。そうしたことはあるというふうに思いますし、例えば学校などにおきましても、何か特別な行事をやらなきゃならないというようなときに、校長先生だとか教頭先生というのが亡くなられるというようなことがよく報告されておりますから、そうした問題もございましょう。

 そうしたときに、どうやはり健康管理をしていくかということをお互いにふだんから考えてもいただかなければなりませんし、そのために、そういうときにどういうふうにしていくかということも、やはりこれは健康管理の一つの指針として我々も示す必要があるのではないかというふうに思っている次第でございます。

小池晃君

 大臣も、時間も大事だというふうにおっしゃったんですけれども、本当に労働時間、大事だと思うんです。

 その点で、脳・心疾患の労災認定の問題についてお聞きをしたいんですが、労災認定において労働時間、これはどのように評価をされているのか。またそこで、労災認定における労働時間の定義はどういうことになっているのか、お分かりでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 これは、いわゆる過労死の基準でございますけれども、これは平成十三年十二月に改定いたしまして、これによって今やっておるわけでございますけれども、ここで言っております労働時間というのは、実労働時間といったものをベースにして算定してやっておるというものでございます。

小池晃君

 今の過労死基準にはこういうふうにあるんですね。労働時間の長さは業務量の大きさを示す指標であり、また過重性の評価の最も重要な要因でもあるので、評価期間における労働時間については十分に評価することと。脳・心疾患の労災認定において最も重要な要素が労働時間であるということは、これは間違いないというふうに思うんです。

 局長、それはそれでよろしいですね。

政府参考人(松崎朗君)

 基本的には、その労働時間の長さといったものを着目した場合にはそういうことが言えるということでございます。

小池晃君

 正に労働時間を把握することなしに労災認定もできなければ、使用者は労働者の健康管理を進めることもできないと思うんです。この最も大事な労働時間の把握について、今回の法案の法文上、裁量労働制を採用した事業所の使用者に労働時間把握の義務はあるんでしょうか。また、把握しなかった場合の罰則はあるんでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 裁量労働制といいますのは、これは法律上の要件がございますように、業務の性質上云々とこれありますように、具体的な作業の進め方、それから時間配分、そういったものについて使用者が指示をしない、大幅に本人に任せているというものでございます。したがいまして、具体的な実労働時間、労働時間の把握というものは使用者はしないということがこの制度の趣旨でございます。

小池晃君

 しかし、たとえ裁量労働制であっても、使用者には労働者の健康を守る責務があるわけです。健康を守るために労働時間の把握する、これは当然のことじゃないんですか。労災認定においても最も大事なのが労働時間の把握なんですから。それなのに、労働時間を把握する責務もない、罰則もないと、こういうことで労働者の命を守っていくということができるんでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 今申し上げましたように、裁量労働制といいますものは、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねているというものでございます。したがいまして、使用者が具体的な指示をしないというものでございますから、使用者が対象労働者につきまして具体的な時間というものを指定したり管理をするといったことは制度の趣旨からいってなじまないわけでございます。しかしながら、労働者につきましては、命、健康、それから安全といった、危険から保護する義務、いわゆる安全配慮義務というのは元々使用者にございますけれども、この安全配慮義務はなくていいというものではもちろんございません。

 したがいまして、裁量労働制に係ります指針におきましても、この点をその指針の中でも明示をしておりまして、事業者は、裁量労働制対象労働者及び管理監督者についても、健康確保のための責務があることなどにも十分配慮して云々というふうに過重労働の対策の中でも言っておりますけれども、そういった責務があるということを前提にして、企画型裁量労働制につきましては、労働時間の状況を把握するということで、実労働時間ではございませんけれども、例えば会社の在社時間といったような、労働時間の状況を把握する責務があるというふうにしているところでございます。

小池晃君

 労働時間の状況の把握、労働時間の把握、この二つはどう違うんですか。

政府参考人(松崎朗君)

 労働時間の状況の把握といいますのは、この指針の中でも具体的に言っておりますように、在社時間といいますか、労働を提供し得る時間、在社時間、在室時間、そういったもの。また、具体的な労働時間そのものの把握といいますのは、何時から何時まで働いて、何時何分から何時何分まで働いているという、正にその実労働時間というものでございます。

小池晃君

 私は、健康管理をするのであれば、時間の管理をしろとは言いませんよ。それは、裁量労働制というのはそういうものだからと、そういうふうにおっしゃるんでしょう。しかし、時間の把握をするということは、これは健康管理上どうしたって必要じゃないですか。何で実労働時間の把握としないのか。

 例えば、「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置等」という文書を出されていますが、その二の(三)ではこう言っています。「基発第三三九号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」に基づき、労働時間の適正な把握を行うものとする。」と。これはやっぱり労働時間を把握する、これは使用者の責務だとなっているわけです、これに照らしても明らかだと。

 局長は、衆議院の審議で、実際の労働時間を把握して管理するということになると、これは実質的に裁量制ではなくなるというふうに言っている。たとえ局長が言うように、管理は労働者の責任だというのが裁量労働制の趣旨だとしても、労働者の健康を守る責務というのはそれとはまた別にあるわけですから、やっぱり労働者の健康管理をするためには労働時間を把握をする、管理ではなくて把握をする、これは使用者の責務ではありませんか。

政府参考人(松崎朗君)

 これは繰り返しになりますけれども、労働時間の把握をするということは管理につながって、結局、裁量労働制、実質的には御本人に裁量性はなくなってしまうということで、これは裁量制の本来の趣旨というものをないがしろにして、制度の趣旨から外れるというふうになると思います。

小池晃君

 しかし、一方で、先ほどからおっしゃっているように、健康管理に責務があると。やはり実労働時間の把握を使用者の責務としないということであれば、例えば労災事故が起きた場合、労災認定はどうなるのか。不可能になってしまうんじゃないか。裁量労働制の労働者が命を落としても何ら救済されないということになってしまうんじゃないか。

 これは、労基法第三十八条にはこうあるんですね。健康と福祉の措置は義務だというふうになっているわけですから、この労基法三十八条の規定が、労働時間の把握しなければ全く空文化しちゃうんじゃないですか。もし労災認定という場合に、じゃ、どうやってその時間を判断をするわけですか。

政府参考人(松崎朗君)

 具体的な労災認定の場合の労働時間の把握でございますけれども、これは、実際の業務日報でございますとか、事業場のいろいろかぎを開けたり閉めたりといったような記録、それからそういったようなできるだけ客観的な資料、そういったもののほか、御本人のいろいろメモ、またパソコンの稼働時間であるとかそういったものもございます。それから、関係者からの実際の聴取、そういったことによりまして御本人の労働時間というものを特定して、その労働時間によりまして業務の過重性の評価を行うということにしているところでございます。

小池晃君

 客観的な資料が必要なんだというふうにおっしゃいました。しかし、実態はどうだろうか。

 これ厚生労働省の裁量労働制に関する調査を見ると、労働時間の把握方法について、企画業務型の裁量労働の労働者で自己申告というのは六九・八%ですね。タイムカード、IC カードというのはわずか一一・一%なんですよ。客観的資料なんてこれじゃ存在しないじゃないですか。労災認定のしようがないじゃないですか。

 その労働時間の状況の把握だと、百歩譲ってそう言うのであれば、だったらば、こういう状況を放置しておいていいのかと。やはりその入退室時間、出退勤時間をきちっと把握すると。これ自己申告なんかじゃ駄目ですよ。客観的資料をやはり義務付ける、このくらいのことをしないと、これ全く過労死防止になりませんよ。そこのところ、どうなんですか。

政府参考人(松崎朗君)

 この実労働時間というのは、正に自分の裁量でもってどういうふうに配分するか、どういうふうにやるかということを任しているわけでございますので、そこのところに使用者が実質的に管理を行うといったことは、制度の原則といいますか、制度の趣旨からいってそぐわないというふうに思っております。ただ、健康管理といいますか、そういったものは使用者の責任であることは間違いございません。

 したがいまして、この裁量型につきましても、今回の改正でいわゆる専門業務型につきましても要件とするわけでございますけれども、健康・福祉措置、こういったものを重要な責務としてきちんと位置付けるわけでございまして、その前提として在社時間といったような、そういう客観的な資料といったものはきちんと使用者は把握するようにということを言っています。ただ、実質的に、その中でどれだけ実際に働いたかといったことについては御本人に任しているけれども、在社時間といったようなものは客観的な資料に基づき把握することが望ましいというふうにしております。

 ただ、さらに、この自己申告については、これは裁量制に限らず、元々労働時間管理というのは客観的な資料に基づいて使用者が行うのが原則でございますけれども、そういうものにより難い場合には一般の場合でも自己申告制、これもきちんと、たしか三三九通達でございますけれども、そこで自己申告する場合の要件といったもの、そういったものを例示を挙げて示してございますけれども、そういったきちんと自己申告制がされるということを前提にして、自己申告制でもやむを得ないといいますか、認めるということをやっておりますので、この裁量労働制につきまして自己申告制の問題といったものは適正に運用される限りないというふうに考えています。

小池晃君

 そのやむを得ない場合は自己申告とおっしゃるけれども、七割が自己申告なんですよ。これでは歯止めになっていないでしょうと。こんなのでいいんですか。やむを得ない場合は本当にごくわずか自己申告だというんだったら、それはある程度、局長のおっしゃることだってうなずけないことはない。しかし、七割は自己申告だというのが実態なんですよ。

 こういう中で、労働時間は管理しないと、もうそれは裁量労働制だから仕方ないんだと。じゃ、せめて、せめてその労働時間を類推する労働時間の状況の把握ということをやるんだというのであれば、今自己申告が七割というのは、こういう事態を放置していいのかと。

 やはり一定の、例えばいろんな、この間やられていますよね、労働時間の把握のためにいろんな基準出されているじゃないですか。サービス残業をなくすということで、自己申告制が不適正に運用されているからと、二〇〇一年四月六日の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準では、自己申告制が不適正に運用されているからという指摘がされているし、この間、五月二十三日に出された賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針ではこう言っているんです。「特に、始業及び終業時刻の確認及び記録は使用者自らの現認又はタイムカード、IC カード等の客観的な記録によることが原則であって、自己申告制によるのはやむを得ない場合に限られる」としているんですね。

 私は、裁量労働制を拡大する、そのこと自体に反対ですけれども、でも、もしそれをやるというのであれば、せめて最低限命を守るために、ここはきちっとした基準を、やはり客観的な資料を取るんだと。今七割が自己申告なんという状況を放置していいのか。ここに歯止めを掛けること、これは最低限の厚労省の責任じゃないですか。こういう基準を作るべきだと思いますが、いかがでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 御指摘のように、平成十三年の三三九号通達でございますけれども、その中に確かに原則として、今、委員がおっしゃいましたように、原則としては自ら現認するとか、また客観的資料と書いてございます。また、自己申告制により行う場合というのは、行わざるを得ない場合ということで、例外的にはこれでもしようがないと、やむを得ないということを言っておるわけでございますけれども、その要件としまして、その労働者に対してきちんと実態を正しく記録して適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を当該使用者は行うと。それからまた、自己申告により把握いたしました労働時間が実際の労働時間に合致しているか否かについて必要に応じて使用者が実態調査を実施すると。またさらに、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないといったような具体的なこともきちんと挙げて、自己申告制というものが適正に行われるようにやっているところでございます。

小池晃君

 ですから、私は、裁量労働制を拡大するということであれば、それに伴ってやはりこのままでは過労死が出るんじゃないかという指摘、いろんなところからされているわけですよ。

 大臣、ちょっともう大臣にお聞きしたいんですけれども、そういう指摘もあると。このままで労働者の命を守れるのかということがあると。労働時間そのものを把握するのは、これは裁量労働制の本旨ではない。だとすれば、その労働時間の状況というか、入退勤のような問題について、きちっと裁量労働制を取るからには少なくとも健康管理に必要な資料をそろえさせるということをやっぱり使用者には義務付けていくということは、これは最低限必要な措置なのではないだろうかというふうに考えるんですが、大臣いかがでしょうか。

国務大臣(坂口力君)

 裁量労働制の場合には、なかなか時間の管理というのは、今、局長言いますように普通の人よりも難しいということは私も理解できるんです。ですから、これは単位時間に与えられた仕事量でしょうね。この仕事量がどうであったかということが非常に大きな過労死であったかどうかということの判断に私はなると思っております。

 それは、同じ徹夜していましても、マージャンして徹夜しておって死んだ人はいないんですからね。それは心の負担にならないですもの。ですから、それはいかに心の負担になるような大きな仕事を単位時間に与えられたか、それによって私は決まってくるというふうに思いますから、裁量労働制のときの過労死の判断というのは今までの判断基準だけでは私はいかないというふうに思っております。

小池晃君

 それは仕事の中身も問題かもしれませんが、最初に大臣おっしゃったように、やっぱり時間というのは非常に大きなファクターとしてあるわけですよ。そのときに、やはり裁量労働制ということになると、きちっとした把握ができなくなるということではいけないんだろうと思うんです。やはり何らかの把握をする手段という客観的な資料ということを、今七割が自己申告でやっているという現状を放置していいのだろうかと。やはりこれに歯止めを掛ける必要があると。いかがですか。

国務大臣(坂口力君)

 一般の方の場合にはその時間というのが大変大事な一つの要素になるということを、そう思っておりますし、この裁量労働制の場合にも、時間の一つの基準というものを放棄しろということを申し上げているわけではありません。できるだけそれは把握をした方がいいというふうに思いますが、しかしそれだけで裁量労働制の場合には過労死の認定をすることはなかなか今までのような仕方では難しくなるだろうということを私は言っているわけでありまして、この裁量労働制を取る人たちに対する判断基準というものは新しくやはり作っていく必要があるということを申し上げたわけであります。

小池晃君

 これはきちっとした基準をやはり作るべきだと。やはり客観的な資料ということを、これは七割が自己申告などということを放置すること許されないと思うんで、やはりきちっとした基準を、資料の提出ということを求めていくということをやるべきだということを、大臣もそういう方向だとは思うんですが、申し上げたいと思います。

 ちょっと最後に、具体例を挙げてちょっと労働時間管理の実態の問題でお聞きしたいんですが、電機メーカー大手の東芝の職場で導入されている ACE ワークというやり方です。これは横浜にあります東芝の京浜事業所で ACE ワークという勤務形態が、これがあるんです。労働者が希望すると、基本給の二割の業務加算と、それからボーナスにも加算が付くんです。業務加算は残業代に換算すると二十時間分だと。

 この ACE ワークの実施基準、厚労省には事前にお渡ししてありますけれども、そこにはこう書いてあるんですね。始業、終業時刻は従業員の自主管理とすると。労働時間の把握の項では、従業員は生産機関ごとに勤務実績を勤務表により場長に報告し、場長はそれを確認すると。これは明らかに自己申告制ということになるかと思うんですが、いかがですか。

政府参考人(松崎朗君)

 ただ、これは具体的なケースでございますので、いただいた資料だけでは判断はいたしかねます。

小池晃君

 だって、基準にそう書いてあるんですから、判断いたしかねますって、もう自己申告ですと書いてあるんですから、これは明らかでしょう。

 私、サービス残業通達出しながら二年にわたって、二年間たってももう明らかに基準で自己申告でやりましょうと書いてある、こういうことがまかり通っていいんだろうかと。これ、労働基準法違反じゃないですか。

政府参考人(松崎朗君)

 一般論としまして、確かに労働時間管理といった問題につきましては、何回も申し上げておりますように、事業主自らが使用者自ら現認するなり、タイムカード等、客観的な記録を基礎にというふうにしております。したがって、自己申告を採用するといたしましても、その運用を適正に行えば問題ないというふうに扱っているわけでございますから、先ほどまでの繰り返しになりますけれども、先ほどの通達にありますように、自己申告制を採用するに当たってのいろいろな留意事項、そういったことをきちんと守っていただければ適正に運営されるというふうに思っております。

小池晃君

 私はそんな生ぬるいことでは本当にサービス残業なんかなくならないというふうに思いますね。

 これ、毎月多少のサービス残業をしてもこれはボーナスで加算されるということで、あるいは ACE ワークが昇進への道だということで、みんなもうこれにしがみついているということなんですよ。しかし、期末業務加算あっても、サービス残業分、取り戻していないという労働者が大変多いんだというふうに聞いております。

 ここに、去年の暮れ、労基署の調査が入って、未払残業代が返っているんですね。これ非常に喜ばれたわけですが。そうしたらば、今度、次のボーナスで会社が未払残業分差し引いたというんですね。これなぜかというと、この会社は労基署から勧告を受けて未払分支払ったんだけれども、そうなるとこの ACE ワークの対象から外れるということになりまして、そして既に支払われた業務加算をボーナスから引いたというんですよ。

 これ、言ってみれば、せっかく厚生労働省というか労働基準監督署がサービス残業是正の措置を取った、それなのにそのことを理由にして別の名目で支払った手当が返却させられると。労働者かんかんに怒っているんですけれども、こんなひどいことがあっていいんでしょうか。

政府参考人(松崎朗君)

 これ、個別の事案ですのでどういうふうに、具体的にどういうふうに労働基準法等に違反するかといったことをきちんと確認した上でないとお答えできませんので、ちょっとお答えは差し控えさせていただきます。

小池晃君

 昨日、全部資料を渡して説明してあるんですけれどもね、原局には。そういうことでは困るんですが。

 これは、返還された手当というのは既に一回支払われたものが返還させられているんですよね。これ、返却する義務は労働契約上ないと思うんです。こういう不利益な変更というのは、これは通用するんでしょうか。この点はいかがですか。

政府参考人(松崎朗君)

 一般論として、その返還というのはどういう性格のものか。何といいますか、自主的に返還するのかそれとも強制的に返還するのか、また過誤払であったのか、間違いだったのか、単純な間違いなのか、そういう理由等いろいろあろうかと思います。したがいまして、そういったものが具体的にどういうふうな格好で労働基準法上の条文に抵触するのかしないのか、そういったものを具体的に判断する必要があるというふうに考えています。

小池晃君

 会社側は過払いじゃないと言っているんです。文書でちゃんと説明しているんです、会社側は。こうこうこういう理由で返却をしますというふうに書いているんですよ。その文書も、原局には渡してあるんですよ。どうですか。これは明らかに私は、こんなのは本当にひどい、サービス残業是正の措置で労働者が不利益を被るなんてことはあってはならないというふうに思うんです。

 しかも、東芝は、今年の四月になって、労働者から不満が強まって、結局、その二十時間を超えてもすぐにはその ACE ワークから外れなくてもよいということにしたそうなんですよ。だから、もう間違っていたことをやっていたということは会社が認めているんですよね。こういう経過もあるわけです。

 私は、この東芝、この企業は今企画業務型の裁量労働制、検討中だというふうに聞いております。今紹介したこの京浜事業所というのは本社部門ではないですから、今までの枠組みでは裁量労働制を取れないわけです。しかし、今回のこの法案通れば、本社以外にも裁量制拡大するということになっていく、つまりこうした職場も対象になっていくということになるわけで、これはそういうことになるわけですよね。可能性としては、こういう事業所も今回の法改正によってみればこの裁量労働制の適用事業所になり得るわけですね。

政府参考人(松崎朗君)

 確かに、今回の改正でございますその中身としましては、事業場要件の廃止ということで、本社、本店等というふうに限定していたところを外そうということにしておるわけでございます。

 しかしながら、そうはいいましても、何ということの意味ではございませんで、現行四要件ございます。企業全体の運営に影響を及ぼすもの、企画、立案、調査、分析を相互に組み合わせて行うもの、三番目として業務の性質上客観的に労働者の裁量にゆだねる必要性があるもの、四番目として作業をいつどのように行うかについて広範な裁量が労働者に認められているものと、四要件がございます。

 そのうち、一番最初の要件、企業全体の運営に影響を及ぼすものといったところは、これは事業場要件、本店、本社というところを削除いたしますので、企業全体というところは修正せざるを得ないと思いますけれども、ほかの三要件については変更する必要はないと考えておりますので、基本的にそういった事業なり事業場、そういったところが事業戦略としての権限を与えられて、きちんとした独自の事業戦略、経営戦略といったものを立てられるという権限を与えられたところであれば対象にはなり得ると思います。

小池晃君

 外形的要因外されるわけですから、もう対象になり得るわけです。もう質問しませんが、既にこの今紹介した例のように、法の網かいくぐって企業がサービス残業を横行させるようなやり方をやってきている。さらに、今回の法案でこの要件緩和して本社以外にも広げていく、労使委員会でのチェック機能も弱めていく。サービス残業合法化だというふうに言わざるを得ない。

 やはり、サービス残業を根絶するというのが厚生労働省の方針であるならば、世界に類を見ない裁量労働制をこれ以上拡大する、こういうやり方はきっぱりやめるべきだということを申し上げて、質問を終わります。

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