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2004年1月29日(水)159 通常国会

国際基準に基づく深夜労働の軽減と郵政事業における深夜労働の改善に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

平成十六年一月二十九日
小池  晃
八田ひろ子
宮本岳志

参議院議長 倉田寛之 殿

国際基準に基づく深夜労働の軽減と郵政事業における深夜労働の改善に関する質問主意書

 深夜労働による身体疲労・健康への影響が昼間労働に比べ格段に大きいことは、医学的にも国際的にも常識化している。

 だからこそ、ILO (国際労働機関)の「夜業に関する勧告(第一七八号)」では「夜間労働者の通常の労働時間は一般的に平均して短くならなければならず」として労働時間の短縮を提起しているのである。厚生労働省による「平成一三年労働環境調査」でも、全労働者の二〇・七%が深夜労働に従事しており、このうち三六・一%が体調の変化があったと回答しているように、深夜労働の労働者の健康に与える影響は大きい。

 また、深夜労働は、労働者の健康面だけでなく、育児や介護などの家族的責任を果たす上でも、労働者の社会生活を保障する上でも、障害となることは明らかである。

 かつて、第一四三回国会においても「ILO 第一七一号条約の趣旨を踏まえた深夜業の実効ある抑制方策について検討すること」(一九九八年九月二四日参議院労働・社会政策委員会)との附帯決議を行っているが、深夜労働者の増大を抑制するとともに、深夜労働を余儀なくされる場合でも、可能な限りその労働時間の短縮を図るとともに、労働条件の抜本的な改善に努力しなければならない。

 ところが、政府は、ILO の「夜業に関する条約(第一七一号)」の批准を行わないばかりか、「資本効率の向上等の観点から」(労働省「深夜業の就業環境、健康管理等の在り方に関する研究会中間報告」)をも理由に挙げ、「深夜業は、…必要不可欠」との立場から、若干の健康対策と引き替えに、深夜労働の増大を野放しにしていることは重大な問題である。

 例えば、昨年発足した日本郵政公社は、「公共の福祉の増進を目的」とすべき郵政事業の労働現場に「第一期中期計画」を前提に「郵政事業の効率的な服務の方法の実施」として、従来の「新夜勤」制度を更に過酷にした「深夜勤」(現場では「ふかやきん」と呼称)制度の導入を提案、本年二月八日から実施しようとしている。

 この「深夜勤」制度は、二二時から翌朝九時までの一一時間勤務を四日連続で行うことを基本とするもので、仮眠もない深夜長時間労働である。この制度は、一部民間企業で実施されている制度を全国三二〇局、二万人の郵政職場に持ち込むものであり、今後の国民的な労働の在り方の ? 基準 ? とされることが予想され、看過できない。

 郵政産業労働組合の調査によると、現行の「新夜勤」実施以降の一〇年間だけでも、心不全・心筋梗塞、くも膜下出血などで勤務中や夜勤明け、その翌日等に四三人が死亡したほか、基礎疾病(持病)を増悪させられ、発症・死亡や長期入院などの事例も顕著になっている。

 今でも「実際には、まともな仮眠などとれない」という労働者が多く、「昼間はなかなか眠れず、アルコールの力を借りる」「昼間はいろんな音が聞こえてくる。電話も、セールスもきて、何度も起こされる」などという声が多く出されている。

 この上に、「深夜勤」制度になれば、特に遠距離通勤者への影響は深刻で、長距離通勤の労働者は「毎日四時間ぐらいしか眠れない。夕食は出勤途中の電車の中でとるしかない。これでは死んでしまうよ」といい、職場では「とても体がもたない。定年まで間があるけど、退職させてもらう」という労働者が何人も出ている状況である。

 こうした「深夜勤」制度が、郵政職場に「必要不可欠」なものでないことは明白である。既に、国際的には、万国郵便条約によって「優先・非優先郵便制度」が主要な流れになっている。現在利用されている郵便のうち、六〇〜七〇%は急を要しないものである。日本郵政公社は、「不急郵便制度」の導入を真剣に検討し、労働者に過酷な負担となる「深夜勤」制度を実施せずとも事業を推進できる道を考えるべきである。

 政府は、日本国憲法第二七条に基づく勤労の権利を保障する立場から、国際基準に照らして、わが国の深夜労働の実態をつぶさに調査し、その在り方を抜本的に再検討する必要がある。特に、郵政職場における過酷な深夜労働の現実を直視し、早急に有効な改善措置を講ずべきである。

 よって、以下のとおり質問する。

一 政府は、国際労働基準を遵守すべきである。とりわけ、ILO 第一七一号条約を直ちに批准すべきである。批准に向けてどのような努力を行うのか、政府の見解を示されたい。

二 労働基準法第三七条の「深夜割増賃金二五%以上」は長期にわたって据え置かれ、深夜労働を蔓延させるテコとなっていることは明らかである。直ちに引き上げるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 経済のグローバル化や労働者の働き方の多様化などを理由とした、深夜労働の拡大を野放しにすべきでない。政府は、深夜労働の国際的動向に照らして、日本における深夜労働について、労働環境だけでなく、家庭生活・社会生活への影響を含めた全面的な実態調査を実施すべきであるが、政府の見解を示されたい。

四 労働基準法第一条第一項は、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」とうたっている。同条第二項では「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と定めている。さらに同法第二条では、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とも明記している。郵政職場においても労働基準法に基づき労使が対等の立場で労働条件向上のために努力すべきである。政府の見解を示されたい。

五 労働安全衛生法第三条は、「事業者は、…快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と規定している。郵政職場においても「快適な職場環境の実現」、「労働者の安全と健康の確保」が当然必要である。政府の見解を示されたい。

六 女性の深夜労働規制の撤廃などが行われた一九九七年〜一九九八年の「労働基準法の一部を改正する法律案」(以下「労基法改正案」という。)の国会審議の際に、「深夜業の規制」が論議された。その結果、衆議院修正により労基法改正案の附則第一二条に「国は、深夜業に従事する労働者の就業環境の改善、健康管理の推進等当該労働者の就業に関する条件の整備のための事業主、労働者その他の関係者の自主的な努力を促進するものとする」との規定が設けられた。政府は、この附則に基づき、日本郵政公社と関係労働組合に対し「深夜業に従事する労働者の就業環境の改善、健康管理の推進」等について努力を促進するよう働きかけるべきであるが、どのような努力をするのか、明らかにされたい。

七 一九九八年九月二四日の参議院労働・社会政策委員会では、労基法改正案に対し「将来における深夜業の総合的なガイドラインの策定に資するため、主要業種ごとの労使による自主的なガイドラインの適切な設定に向け、労使が参考とすべき事項を明らかにしつつ実態調査や労使の話合いの場の設定等、労使の取組に対する必要な援助を行うとともに、ILO 第一七一号条約の趣旨を踏まえた深夜業の実効ある抑制方策について検討すること」との附帯決議を行っている。政府は、この決議に基づき、郵政事業についても「労使による自主的なガイドラインの適切な設定に向け、労使が参考とすべき事項を明らかにしつつ実態調査や労使の話合いの場の設定等、労使の取組に対する必要な援助」を行うべきである。また、特に郵政職場では、深夜労働の大幅な条件変更が計画されているため、労働者の声に耳を傾け、その実態調査を行うべきである。どのような努力をするのか、政府の責任ある見解を示されたい。

 右質問する。


参議院議員小池晃君外二名提出国際基準に基づく深夜労働の軽減と郵政事業における深夜労働の改善に関する質問に対する答弁書
答弁書第二号

内閣参質一五九第二号
平成十六年三月五日
内閣総理大臣 小泉純一郎

参議院議長 倉田寛之 殿

 参議院議員小池晃君外二名提出国際基準に基づく深夜労働の軽減と郵政事業における深夜労働の改善に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

参議院議員小池晃君外二名提出国際基準に基づく深夜労働の軽減と郵政事業における深夜労働の改善に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「国際労働基準」とは、国際労働機関(ILO)において採択された条約(以下「ILO 条約」という。)を指すものと考えられるところ、ILO 条約については、それぞれの条約の目的、内容、我が国にとっての意義等を十分検討した上で、批准することが適当と考えられるものについては、国内法制等との整合性を確保した上で批准することとしている。ILO 第百七十一号条約において、労働者は一定の場合には自己の請求により健康状態についての評価を無料で受ける権利を有する旨規定していることと、我が国において、労働者にはそのような権利は付与されていない一方で、事業者は労働者に対して無料で定期的に健康診断を行わなければならないとされていることとの関係等について整合性が確保されていないため、現時点で同条約を批准することは困難であり、慎重な検討が必要であると考える。

二について

 御指摘の深夜業に係る割増賃金は、深夜の時間帯における労働が通常の時間帯における労働よりも強度であること等に対する労働者への補償として、その支払が義務付けられているものである。現行の割増率は、このような制度の趣旨に照らして適切なものと考えており、現時点において、これを引き上げることが必要とは考えていない。

三について

 深夜業については、これまでも、労働者の深夜業への従事状況、深夜業に従事する労働者の健康状況など様々な観点から調査を実施してきているところであり、今後とも必要に応じて調査を行ってまいりたい。

四について

 日本郵政公社(以下「公社」という。)における職員の給与、労働時間その他の労働条件については、公社において、日本郵政公社法(平成十四年法律第九十七号)、特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)その他の関係法令の規定に基づき、関係労働組合との団体交渉を行い、労働協約を締結すること等により決定されるものと承知している。

五について

 公社の職員は労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)の適用を受けるものであり、公社は、同法第三条の規定に基づき、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における職員の安全と健康を確保するようにしなければならないものである。

六及び七について

 労働基準法の一部を改正する法律(平成十年法律第百十二号)附則第十二条及び同法の国会審議における附帯決議の趣旨を踏まえ、平成十一年度から「労使による深夜業に関する自主的ガイドライン作成支援事業」を通じ、七業種において深夜業に従事する労働者の就業環境の改善等に関し労使による自主的な取組が行われるよう支援を行ってきた結果、当該七業種において自主的なガイドラインが策定されているところである。今後は、公社を含め、当該七業種以外の関係者に対し、必要に応じて、これらのガイドラインに関する情報の提供を通じ、自主的な取組の促進を働きかけてまいりたい。

 また、公社の職員の労働条件については、公社において、関係法令に基づき、関係労働組合との団体交渉を行い、労働協約を締結すること等により決定されるものである。したがって、公社の深夜業に係る労働条件についても、公社において、職員の就労実態等も踏まえつつ、このような仕組みの下、適切に決定されることとなるものと考えている。

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