労働問題

派遣法改正への反対署名 強要するな
浮かぶ 業界ぐるみの法違反


「しんぶん赤旗」2009年7月23日(木)より転載

 労働者派遣の業界団体と派遣会社が労働者派遣法の改正に反対する署名を派遣労働者に押し付けている問題は、厚生労働省が調査に入る考えを表明するなど新たな展開をみせています。「派遣切りに反省もせず法改正に反対するとは許せない」「個人情報保護法違反の署名強要をやめよ」との声が広がっています。


立場を使い押しつけ

写真

(写真)改正反対署名の押し付け問題で厚労省に調査するよう求める小池参院議員(右奥)=18日、参院議員会館

 署名は、事務系派遣など777社でつくる日本人材派遣協会と、製造派遣など122社でつくる日本生産技能労務協会が派遣会社と連携して6月下旬から集めているもの。派遣協会などのホームページ上で署名するようになっています。

 政府案の30日以下の日雇い派遣原則禁止だけでなく、野党が求める製造業派遣や登録型派遣の原則禁止などいっさいの規制強化に反対しています。

 派遣登録した労働者に電話や電子メールで署名するよう求めていますが、派遣先を紹介されないと働けない派遣労働者にとっては強制に等しいものです。

 ある大手派遣会社は「規制が強化されると雇用状況は確実に悪化すると考えます」などと書いた電子メールを送り、「署名にご協力をお願いします。できるだけ多くの署名を集めたいと考えておりますので、派遣先の皆さまやご家族、ご友人などにも署名をお薦めください」といって署名集めまで求めています。

 メールを受け取った女性は「署名しないと派遣先を紹介してもらえないようで圧力を感じました」と語ります。

 署名するさい、所属する派遣会社名を書くようになっており、だれが署名したのかが分かるため、「監視されているようでぞっとします」と話します。

 電話で署名を求められた女性は、「派遣先紹介と併せて署名するようにいわれ断れませんでした。業界の利益のために私たちを利用することはやめてほしい」と語ります。

 雇い止めされた派遣労働者は、「偽装請負や派遣切りに反省もなく、派遣労働者の弱みにつけこんで署名を強要するのは許せない」と話します。

 別の派遣会社では、内勤社員に対して派遣労働者から署名を集めるよう指示。職員の一人は「会社がつぶれて失業したくなかったら集めろといわれました。個人目標を立てて、毎日、目標を追求されています」と話します。

保護法も踏みにじり

 派遣登録されたアドレスを使ってメールを送り、署名協力を迫るやり方は、個人情報の目的外利用を禁じた個人情報保護法や労働者派遣法、派遣元指針を踏みにじるものです。

 個人情報保護法では利用目的以外の個人情報の収集・活用を禁止。派遣法や派遣元指針でも、就業の機会確保と雇用管理に限って認めており、それ以外の利用を禁じています。

 厚生労働省職業安定局需給調整事業課も、署名強制の中止を求めた日本共産党の小池晃参院議員に対して、「派遣労働者の登録情報は働き口を紹介することのみに使うべきである」として個人情報保護法や派遣元指針に反する疑いがあることを認め、実態調査を行う考えを表明しました。

 しかも、人材派遣協会や生産技能労務協会は単なる業界団体ではなく、派遣元責任者講習など派遣法にもとづいて法令順守を徹底する業務を担っている社団法人です。それだけに法令無視の姿勢がいっそう問われます。

 ある派遣会社は「送ることを了解してもらっている情報提供メールの一つなので問題ない」と説明。人材派遣協会は、「メールを出すことは各社に指示していない。メールマガジンなどどういう形で出しているのか分からないのでコメントできない」と話しています。

 しかし、送られているメールは情報提供などではなく、署名への協力を求めるものであり、利用目的の範囲を逸脱していることは明らかです。事実上、業界ぐるみで違法行為を行っている構図が浮かび上がっています。

 派遣協会などは近く集約した署名数を発表する予定ですが、違法行為でかき集めた署名に正当性などみいだせないのは明らかです。

デタラメな反対理由

 やり方が違法なだけでなく改正に反対する理由もでたらめです。

 「雇用を喪失させ、経済活動の停滞を招く」などといっていますが、派遣労働を規制したからといって仕事自体がなくなるわけではありません。直接雇用に切り替えればすむ話であり、あまりに身勝手な言い分です。

 派遣切りを二度と繰り返させないために派遣法を抜本改正することは国民多数の世論です。不安定な登録型派遣の禁止をはじめ違法行為が横行する製造業派遣や不安定極まりない日雇い派遣禁止、派遣会社のマージン(手数料)規制などが求められています。

 ところが、派遣協会などはこれにことごとく反対しています。

 逆に「派遣を臨時的・一時的なものと位置づけることに反対です」(基本的考え方)として、常用雇用の代替としないという派遣法の大原則を投げ捨て、期間制限を超えると派遣先に雇用させる「直接雇用の申し込み義務」の撤廃をはじめ全面的な規制緩和を主張し、業界のエゴをむき出しにしています。

法違反を平然と擁護

 見逃せないのは、「派遣法による規制が難解で現実と合致しない過剰なものとなっている」として、「これ(派遣法)を守ることが著しく困難になっている」と法違反を平然と擁護していることです。

 派遣協会は、全国各地で派遣元責任者講習を担うなど法令順守を徹底すべき立場にある団体です。それが法違反を擁護するなどあるまじき態度です。

 しかも派遣協会は、違法派遣を繰り返して業務停止命令を受けた業界トップのグッドウィルをはじめ各社が法違反を重ね、そのたび「法令順守」を誓ってきました。新聞1ページの謝罪広告を出したこともあります。

 昨年来の派遣切りでは、労働契約法で禁止されている中途解雇を強行。労働局から是正指導を受け、裁判所から解雇無効の命令を受けるなど社会的批判にさらされました。

 にもかかわらず、派遣切りに何の責任も感じず、「派遣法を守るのは困難」と開き直るのは、この業界に法令の順守はもとより派遣労働者を守るルールをつくる意欲も資格もないことを示しています。

 人材派遣協会の松田雄一専務理事は、厚生労働省の職業能力開発局出身の天下り官僚です。業界を監督・指導すべき立場の者が天下って業界エゴのために世論に逆らうことは許されないことであり、現行法令順守を担う社団法人として存在意義が厳しく問われます。

 無法な働かせ方を続けようとねらう財界や業界の横やりをはねのけて、派遣法を抜本改正するたたかいがますます重要になっています。


アーカイブ